エピメーテウス
エピメテウス · Epimetheus
イーアペトスの子で、プロメーテウスの弟。名は「後から考える者」を意味し、兄の警告を聞かずパンドーラーを迎え入れた。
解説
概要
エピメーテウス(Ἐπιμηθεύς / Epimetheus)は、イーアペトスとクリュメネーの子で、プロメーテウスの弟である。名はギリシア語で「後から学ぶ者」、すなわち後知恵を意味し、「先に考える者」である兄と対をなす。この一対は、人間という存在の二つの面——先を見通す知恵と、事が起きてから悔いる愚かさ——を表す型として、古代から用いられてきた。
神話・物語
ヘーシオドスは『神統記』と『仕事と日』の二度にわたってこの兄弟の話を語る。プロメーテウスが火を盗んで人に与えたのち、ゼウスは報復としてヘーパイストスに土から最初の女パンドーラーを造らせ、贈り物としてエピメーテウスのもとへ送った。プロメーテウスは、ゼウスからの贈り物は受け取るなと弟に釘を刺していたが、エピメーテウスは受け取ってしまい、受け取ったあとで警告を思い出した。パンドーラーが容器の蓋を開けると、災いが人の世に散った(パンドーラーの箱)。なお二人が夫婦になったことは、ヘーシオドスの本文には明記されておらず、後代の著述家が読み込んだものである。
プラトン『プロタゴラス』は、この兄弟に別の役を与える。新たに造られた生き物たちに能力を配る仕事を任されたエピメーテウスは、獣たちに毛皮や爪や俊足を割り当てていくうちに、人間の分を残さずに使い果たしてしまった。困った兄がアテーナーとヘーパイストスのもとから技術と火を盗んで人に与える——ここでは、弟の失策が文明の起源そのものを説明する装置になっている。カール・ユングは『心理学的類型』でこの名を、心の機能が本来の働きから外れて用いられることの比喩として使った。
後代の系譜では、エピメーテウスとパンドーラーの娘ピュラーが、プロメーテウスの子デウカリオーンと結婚し、大洪水を生き延びた二人となる。兄弟の系統がここで一つに合流し、以後の人類の祖となる。別の伝えでは、後悔を意味する名を持つメタメレイアという娘や、オーケアノスとテーテュースの娘エピュラーを妻とする話もある。ピンダロス『ピューティア第五歌』では、口実を意味するプロパシスの父とされる。「言い訳」を娘に持たされているところに、この神への古代人の評価がよく表れている。
図像と象徴
エピメーテウスの図像は、ほぼ例外なくパンドーラーの誕生の場面に現れる。本項に掲げたアッティカ赤絵式のクラーテール(オックスフォード、アシュモリアン美術館 V 525)は、大地から立ち上がるパンドーラーを、槌を手にしたエピメーテウスが迎える場面を描く。人物の傍らにはΖΕΥΣ、ΗΕΡΜΕΣ、ΕΠΙΜΕΘΕΥΣ、ΠΑΝΔΩΡΑの銘が記されており、同定は確実である。エピメーテウスが持つ槌は、大地から人を打ち出す道具とも、彫像を仕上げる工人の道具とも解される。上空にはリボンを持つエロースが飛ぶ。
槌を手にすることは、この神を職人のように見せる。天を担うアトラースや鷲に苛まれるプロメーテウスの図像に比べ、罰を受ける姿では表されないのが特徴である。ゼウスに敵対しなかったにもかかわらず、兄の巻き添えで災いを引き受けたという立場が、ここにも現れている。
系譜と関係
父イーアペトス、母クリュメネー(アシアーとする伝えもある)。兄弟にアトラース、プロメーテウス、メノイティオス。妻はパンドーラーとされることが多く、娘ピュラーを通じてデウカリオーンと結ばれる。兄弟のうち、ゼウスと敵対したという説話が伝わらないのはこの神だけである。
文化的足跡
土星の第十一衛星エピメテウスにその名が与えられている。もう一つの衛星ヤヌスとほぼ同じ軌道を回り、数年ごとに互いの軌道を入れ替えるという特異な関係にある。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。