デウカリオーン
デウカリオン · デウカリオーン · Deucalion
プロメーテウスの子で、妻ピュッラーとともに大洪水を生き延びた。神託に従って石を背後へ投げ、そこから人類が再び生じたという。ヘッレーンの父。
解説
概要
デウカリオーン(Δευκαλίων)は、ギリシア神話の人物である。プロメーテウスの子で、母はクリュメネー、ヘーシオネー、プロノイアのいずれかとされる。
ギリシア神話の洪水神話と密接に結びつく。妻ピュッラーとともに大洪水を生き延び、人類を再び生み出した。
神話・物語
洪水はゼウスの怒りによって起こされた。アルカディア王リュカーオーンとその子らの傲慢がその原因である。リュカーオーンが少年をゼウスに犠牲として捧げたため、この供物に慄然としたゼウスは、大洪水を放って青銅の時代を終わらせることに決めた。
父プロメーテウスの助言に従い、デウカリオーンは箱舟を作った。妻ピュッラーとともに九日九夜漂い、パルナッソス山に漂着する。
水が引いたのち、二人は神託を求めた。「母の骨を背後へ投げよ」という答えである。二人はこれを「大地の骨」すなわち石と解し、肩越しに投げた。デウカリオーンの投げた石は男に、ピュッラーの投げた石は女になった。こうして人類が再び満ちたという。
子については資料が分かれる。『ビブリオテーケー』は少なくともヘッレーンとプロートゲネイアの二人、おそらく第三の子アムピクテュオーンを挙げる。娘メランテア(メラントー)を加える資料もあり、彼女はポセイドーンとのあいだにデルポスを産んだ。最も古い文献の一つ『女たちのカタログ』は、娘パンドーラとテューイア、そして少なくとも一人の息子ヘッレーンを挙げる。子孫はテッサリアに住み、これを治めたとされる。
ヘッレーンはギリシア人(ヘッレーネス)の名祖である。洪水を生き延びた者の孫が民族の祖になるという構成は、聖書のノアとその子らの系譜とも並行する。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ギヨーム・ルイエ『著名人肖像集』(1553年)に載る木版の肖像である。古代の図像ではなく、ルネサンス期の人文主義者による想像図である。
象徴の中心は石である。母の骨と読み替えられた石から人が生じる——大地から人が生まれるという観念を、神託の謎かけによって語り直したものといえる。ギリシア語のラアス(λᾶας、石)とラオス(λαός、民)の音の近さが、この物語の下敷きにあるとする読みもある。
名の語源は定かでない。民間語源はデウコス(δεῦκος、「甘い新酒」)とハリエウス(ἁλιεύς、「船乗り、漁師」)に結びつける。妻ピュッラーの名は「炎の色の」を意味する形容詞に由来する。
関わる神格・伝承
父はプロメーテウス、妻はピュッラー、子はヘッレーンら。
洪水を生き延びる者の物語は、メソポタミアのウトナピシュティム、旧約聖書のノア、インドのマヌなど、各地に見られる。ギリシアの版に固有なのは、生き残った二人が石から人類を作り直すという後半部である。多くの版が動物と種を舟に載せることに重点を置くのに対し、ここでは人をどう再生させるかが主題になっている。
文化的足跡
1999年に発見された太陽系外縁天体(53311)デウカリオンは、この人物にちなんで命名された。
日本語圏では、ギリシアの洪水神話は「ノアの箱舟のギリシア版」として紹介されることが多い。しかし石を投げて人を作るという結末は、他の洪水神話に類例が乏しい。人類の再生を、神の創造ではなく生き残った人間自身の行為として語る点に、この物語の特色がある。