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カリュドーンの猪
PLATE — ΚΑΛΥΔΏΝΙΟΣ ΚΆΠΡΟΣ
HELLAS · ギリシア神話
ΚΑΛΥΔΏΝΙΟΣ ΚΆΠΡΟΣ

カリュドーンの猪

カリュドンの猪 · アイトーリアの猪 · Calydonian Boar

George E. Koronaios (2020) CC BY-SA 4.0

アルテミスがカリュドーンに送り込んだ巨大な猪。ギリシア中の英雄が集って狩り立てたが、その皮をめぐる争いがメレアグロスの死を招いた。

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解説

概要

カリュドーンの猪(Καλυδώνιος κάπρος)は、アルテミスがアイトーリアのカリュドーンへ送り込んだ巨大な猪である。王オイネウスが収穫の初穂を神々に捧げた際、アルテミスにだけ供物を忘れたため、怒った女神が放ったとされる。この猪を狩るためにギリシア全土から英雄が集まり、その顔ぶれはアルゴナウタイの航海と重なる。トロイア戦争の一世代前に置かれた、ギリシア神話の大きな結節点の一つである。

物語の力点は、猪を退治したことにはない。狩りのあとに起こった分配の争いと、それが招いたメレアグロスの死にある。神が送った災いを人が力を合わせて除いたのに、その功名の帰属をめぐって同族が殺し合う——アルテミスの復讐は、猪が死んだところではなく、そこで完結する。

登場する物語

現存する最古の形はホメーロス『イーリアス』第9歌にある。老ポイニークスがアキレウスに出陣を促すため、往年のメレアグロスの逸話として語る挿話で、そこでは狩りそのものより、猪の皮をめぐってクーレーテス人とアイトーリア人が戦争になったこと、伯父を殺したメレアグロスが母の呪いを受けて館に籠もり、妻クレオパトラーに説かれてようやく出陣したことが語られる。参加者の名簿もアタランテーへの思いも「運命の燃え木」も、ここには出てこない。

詳細な形はアポロドーロス『ビブリオテーケー』とオウィディウス『変身物語』第8巻に見える。オウィディウスは猪を、燃える血走った眼、剛毛が棘のように生えた首、泡を垂らす肩、インドの象牙のような牙を持つ獣として描いた。ヒュギーヌスも参加者の一覧を残しているが、三者の名簿は互いに一致しない。この不一致自体が、各地の名家が自らの祖先をこの狩りに列ねようとした結果と考えられている。

狩りは犠牲を伴った。ネストールは木に登って難を逃れ、アンカイオスは斧を振り上げたところを腹から突かれて死に、ペーレウスは動転して投げた槍で誤ってエウリュティオーンを殺した。最初に猪へ傷を負わせたのはアタランテーの矢で、耳の後ろに突き刺さった。アムピアラーオスが眼を射抜き、最後にメレアグロスの槍が脇腹を貫いた。

メレアグロスは皮を剝ぎ、最初の血を流した功としてアタランテーに与えようとした。女が褒賞を得ることを恥辱とみた伯父たち——テスティオスの息子たち——がこれを奪おうとし、争いのなかでメレアグロスは彼らを殺す。息子が兄弟を殺したと知った母アルタイアーは、隠しておいた燃え木を炉に投じた。木が燃え尽きるとともにメレアグロスは死ぬ。

伝えの割れ方には注意がいる。ホメーロスの版に「燃え木」はなく、メレアグロスは戦いのなかで討たれる。後代の版では、目に見えない呪具によって遠く離れた場所で死ぬ。同じ死が、戦死としても呪殺としても語られてきたことになる。

猪の出自にも異伝がある。ストラボーンは、テーセウスがクロムミュオーンで退治した牝猪パイアの子だとする。地名を冠した怪物どうしを血縁で結ぶこの整理は、ヘーラクレースが同じくアルテミスの領域から連れ出したエリュマントスの猪とあわせ、猪という災いの型が繰り返し用いられたことを示している。

図像と象徴

古代の作例はきわめて多い。前6世紀のアッティカ黒絵式陶器にすでに現れ、前570年頃のフランソワの壺には参加者の名を銘記した猪狩りの帯が巡る。名を書き添えることで、誰がこの狩りにいたかを主張できる主題だったことがわかる。

ローマ期には石棺の浮彫として好まれた。2世紀半ば以降、ローマや地中海の主要都市、アテーナイをはじめとするギリシア語圏の諸都市で作られたローマ石棺の主題として、「ヘーラクレースの功業」や「ニオベーの子ら」と並ぶ定番となる。本項に掲げたのは、アテネ国立考古学博物館蔵のアッティカ式石棺(後150年から170年頃、Inv. 1186)の浮彫で、猪に向かうメレアグロスとアタランテーが表される。若くして死ぬ英雄という主題が、死者を葬る器にふさわしいと考えられたのだろう。

猪の皮そのものも見世物として存在した。パウサニアースは2世紀にテゲアのアテーナー・アレアー神殿を訪ね、そこに納められていた猪の皮を見ている。老朽して剛毛はすっかり抜け落ちていた。牙のほうは、アントニウス側についた者たちからの戦利品としてアウグストゥスがローマへ運び去っており、一本は折れ、残る一本が皇帝の庭園のディオニューソス聖域に置かれて、長さは半オルギュイアほどだったという。同神殿の正面破風の主題も、この猪狩りであった。

関係する神格・退治した英雄

送り主はアルテミス、原因を作ったのはカリュドーン王オイネウス。とどめを刺したのはその子メレアグロス、最初に傷を負わせたのはアタランテーである。参加者にはテーセウスペーレウステラモーンアムピアラーオスイアーソーンラーエルテースらが数えられる。ヘーラクレースはこのときオムパレーに仕えていたため加わらなかったとされ、彼の猪狩りはエリュマントスで別に語られる。

文化的足跡

19世紀にはアルジャーノン・チャールズ・スウィンバーンが劇詩『カリュドーンのアタランテ』(1865年)でこの神話を語り直し、合唱を備えたギリシア悲劇の形式を英語で再現しようとした。絵画ではバロック期に主題として取り上げられ、ルーベンス《メレアグロスとアタランテーの狩り》、ドメニコ・ヴァッカーロ《猪を殺すメレアグロス》などが知られる。近代の受容が焦点を当てたのは猪ではなく、狩りに加わった女の姿であった。

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領分・別名

親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承点線=異伝・別系統

CREATURE
ΦΑΙ͂Α
パイア
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カリュドーンの猪
ギリシア神話
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資料

Wikidata
Q654379 — 骨格データの出典
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