ラーエルテース
ラエルテス · Laertes
オデュッセウスの父でイタケーの王。老いて田舎に隠退し、息子の帰還を待った。アルゴナウタイの一人にも数えられる。
解説
概要
ラーエルテース(Λαέρτης / Laertēs)は、イタケーの王でオデュッセウスの父である。アルケイシオスの子とされ、アルゴナウタイの航海とカリュドーンの猪狩りに加わったと伝えられる。
『オデュッセイア』では、すでに王権を退き、田舎の農地で暮らしている。老いた英雄を正面から描いた、ギリシア叙事詩でも数少ない人物である。
神話・物語
若い頃はケパレーニア人を率い、レウカス島の都市ネリコスを攻め落としてアカルナーニアーまで支配を広げたとストラボーンは伝える。乳母エウリュクレイアを牛二十頭で購い、豚飼いエウマイオスを家に迎え入れたのも彼である。館の忠実な召使いたちは、ほぼ彼の代からの人々であった。
『オデュッセイア』の現在では、妻アンティクレイアはすでに世を去り、彼は町を離れて果樹園を手入れしながら暮らす。息子の消息が知れないことと妻の死が重なって、すっかり老け込んだ姿で語られる。かつて用いた大楯は館の武器庫で埃をかぶっている。
彼の存在は物語の仕掛けにもなっている。ペーネロペーが求婚者を退けるために織り続けたのは、彼の葬送用の衣であった。生きている舅の死装束を口実に、三年が稼がれたことになる。
第24巻、二十年ぶりに戻った息子は、まず身分を偽って父を試す。名乗ったあと、幼い頃に贈られた果樹を一本ずつ数え上げて証しとした。直後に求婚者の親たちが報復に押し寄せるが、アテーナーに力を与えられた老王は槍を投げ、首謀者エウペイテースを討つ。物語の最後の一撃を放つのは、隠退したこの父である。
図像と象徴
古代の図像はほとんど知られていない。老いた父という役どころは、壺絵が好んだ場面——闘争・変身・怪物——のいずれにも当てはまらなかった。
本ページの主画像は16世紀初頭のフランス語写本(フランス国立図書館 Français 874, fol.8v)の細密画で、ペーネロペー・ラーエルテース・テーレマコスの三人を描く。古代の作例ではなく、中世末期における『オデュッセイア』受容を示す資料である。
系譜と関係
父アルケイシオス、妻はアウトリュコスの娘アンティクレイア。子はオデュッセウスと娘クティメネー。後代の伝承はアルケイシオスをケパロスとプロクリスの子とし、オウィディウスはゼウスの子とする。なおオデュッセウスの実父をシーシュポスとする異伝があり、その場合ラーエルテースは血縁上の父ではないことになる。
文化的足跡
ホメーロスがオデュッセウスに与える定型句「ゼウスの裔にしてラーエルテースの子」は、叙事詩全体で繰り返される。目立つ事績を持たないこの人物の名が、息子の呼称の一部として二十四巻を通じて響き続けることになった。