アムピアラーオス
アンピアラーオス · アムピアラオス · アンピアラオス
ギリシア神話の予言者で、テーバイ攻めの七将の一人。自らの死を予見しながら出征し、大地に呑まれてゼウスに不死とされた。のちに託宣と治癒の英雄として祀られる。
解説
概要
アムピアラーオス(Ἀμφιάραος / Amphiaraos)は、アルゴスの予言者であり、テーバイ攻めの七将の一人である。予言者メラムプースの曾孫にあたり、アルゴスを三分する勢力の一つを担った。
彼の物語の骨格は単純である。負けると分かっている戦に、負けると知りながら出て行く。ギリシアの予言者のなかで、自分自身の破滅を最も正確に見通しながら、それを避けられなかった人物として語られる。
神話・物語
カリュドーンの猪狩りでは猪の眼を射抜き、アポロドーロスは彼をアルゴナウタイの一人にも数える。ただし航海の場面で彼が働く記述はない。
転機はアドラーストスとの誓約である。二人は不和ののち、以後争いが生じたときはアドラーストスの妹でアムピアラーオスの妻でもあるエリピューレーの裁定に従うと誓っていた。アドラーストスがテーバイ攻めを召集したとき、彼はアドラーストス以外の全員が死ぬと予見して反対し、他の将の参戦も止めようとする。そこでポリュネイケースは、エリピューレーにハルモニアーの首飾りを贈って夫の説得を頼んだ。贈り物を受け取るなと言い含めてあったにもかかわらず妻は受け取り、誓約に縛られた彼は出征する。発つ前、彼は息子アルクマイオーンとアムピロコスに、成人したら母を殺してテーバイへ攻め上れと命じた。
軍がネメアーに至ったとき、幼子オペルテースが蛇に噛まれて死んだ。彼はこれを不吉な徴と読み、その子をアルケモロス(禍いの始まり)と呼ぶ。以後のゼウス祭——ネメアー祭——の起源とされる出来事であり、彼自身はその競技で跳躍と円盤投げに勝った。
テーバイではプロイティダイ門を攻めた。瀕死のテューデウスにアテーナーがゼウスの霊薬を与えて不死にしようとしたとき、彼は女神の意図を察し、敵将メラニッポスの首を切り取ってテューデウスに投げつける。テューデウスが頭蓋を割って脳をすすったのを見た女神は嫌悪して恩恵を与えず、テューデウスは死んだ。参戦を説いて回った男への報復であった。
敗走してイスメーノス河へ向かった彼を、ポセイドーンの子ペリクリュメノスが追う。背を突かれる寸前、ゼウスの投じた雷霆が大地を裂き、彼は戦車と御者ごと呑み込まれて姿を消した。ゼウスは冥府の彼を不死とする。死なずに地下へ移されたこの結末が、のちの祭祀の根拠になった。
図像と象徴
古典期の陶画が繰り返し描いたのは「出征」である。前6世紀初頭のコリントス式クラーテール(旧ベルリン蔵、第二次大戦で焼失し図版のみ伝わる)には、戦車に乗る彼と、見送る家族、そして首飾りを手にしたエリピューレーが銘つきで並ぶ。パウサニアースが記録したキュプセロスの櫃にも同じ場面があった。妻の裏切りと自らの死を知りながら出て行く一瞬を選ぶという構図の一致は、この主題が早くから定型を持っていたことを示す。
もう一つの系統が、託宣所の奉納浮彫である。本ページの主画像は、オーローポスのアムピアラーオス聖域から出土した前4世紀の大理石奉納浮彫(アテネ国立考古学博物館)で、右に祈願者、左に患者の肩に手を触れて癒す彼が表され、さらに参籠者が寝台に横たわる場面が続く。治療の各段階を一枚に並べたもので、彼が戦の予言者から治癒の神格へ移っていった過程を、そのまま図に留めている。
系譜と関係
父はオイクレース、母はヒュペルムネーストラー——ダナオスの娘とは同名の別人で、テスティオスの娘である。メラムプースの曾孫にあたり、予言の力を血として継いだ家系に属する。
妻エリピューレーはアルゴス王タラオスの娘でアドラーストスの妹。子はアルクマイオーンとアムピロコス、娘エウリュディケーとデーモーナッサ。父の遺言どおり母を殺したアルクマイオーンは、ヘーラーならぬ復讐女神たちに追われて狂気に陥る。ハルモニアーの首飾りは以後も持ち主に災いをもたらし続けた。
文化的足跡
オーローポスのアムピアレイオンは、前5世紀末から知られる託宣と治癒の聖域である。参詣者は雄羊を犠牲に捧げてその皮の上で眠り、夢に現れる指示を得た。同じ参籠の作法をとるアスクレーピオスの聖域と並び、古代の医療の実際を伝える遺構として発掘が進んでいる。
アイスキュロス『テーバイ攻めの七将』は、彼を七人のうち唯一「見せかけではなく実際に優れた者であろうとする」将として描いた。敗北が確定した戦の内側で、正しさだけを保った人物という像は、この悲劇によって定着している。