オイネウス
オイネオス · Oineus · Oeneus
アイトーリアのカリュドーン王。アルテミスへの供物を忘れて猪の災いを招いた。ディオニューソスから葡萄酒の作り方を学んだと伝えられる。
解説
概要
オイネウス(Οἰνεύς / Oeneus)は、アイトーリアのカリュドーンの王である。ポルターオーンの子で、アルタイアーを妻とし、メレアグロス、デーイアネイラらの父にあたる。名はギリシア語のオイノス(葡萄酒)に通じ、事実この王はディオニューソスから葡萄酒の作り方を学んでアイトーリアに伝えたと伝えられる。「葡萄酒の人」が神話の名として与えられた例である。
その名を最もよく知られたものにしたのは、しかし葡萄酒ではなく一つの手落ちであった。
神話・物語
ある年、収穫の初穂をオリュンポスの神々に捧げる際、この王はアルテミスにだけ供物を忘れた。侮辱と受け取った女神は、天界から巨大な猪をカリュドーンに送り込む。猪は家畜と作男を殺し、葡萄畑と作物を荒らして、人々を城壁の内へ追い込んだ。オイネウスはギリシア全土へ使者を送り、猪を退治した者にその皮と牙を与えると布告した。集まったのがカリュドーンの猪狩りの英雄たちである。王は彼らを九日のあいだ饗応した。
狩りは成功したが、褒賞の分配をめぐる争いが王の一族を裂いた。息子メレアグロスは王妃の兄弟たちを殺し、妻アルタイアーは息子を呪って死なせ、自らも命を絶つ。一つの忘れ物が王家を滅ぼしたことになる。
晩年も安らかではなかった。兄弟アグリオスの息子たちに王位を奪われて退位させられたが、孫にあたるディオメーデースがカリュドーンへ攻め入って王権を回復させた。オイネウス自身はディオメーデースによってアルゴスの地に葬られたと伝えられる。
ヒッポノオスの娘ペリボイアとのあいだにテューデウスをもうけたが、この子はアイトーリアを追われてアルゴスへ渡り、テーバイ攻めの七将の一人となる。オイネウスと自らの娘ゴルゲーの子とする異伝もあり、系譜は一様でない。
図像と象徴
オイネウスを名指した古代の作例は知られていない。猪狩りの図像はつねに狩り手の側を描き、災いを招いた王は画面の外に置かれる。物語の起点でありながら、視覚化されなかった人物である。したがって本項では主画像を置いていない。
葡萄酒を伝えた王という側面が図像化されることもなかった。ギリシア美術において葡萄酒はディオニューソスとその一行の領分であり、それを人間の王に帰する図柄は求められなかったのだろう。
系譜と関係
父ポルターオーン、妻アルタイアー。子はメレアグロス、トクセウス、テュレウス、クリュメノス、メラニッペー、ゴルゲー、デーイアネイラ。ペリボイアとのあいだにテューデウス。デーイアネイラについては、実の父をディオニューソスとする伝えもある。孫にディオメーデース。神への供物を怠って災いを招くという型は、アルテミスをめぐる物語に繰り返し現れるもので、獣の女主人が人里へ獣を送るという形をとる。
文化的足跡
後世の文学がこの王を主役に据えることはほとんどない。ソポクレースやエウリーピデースが彼を題名に冠した悲劇を書いたと伝えられるが、いずれも断片しか残らない。悲劇の主人公たりえた人物が、失われた作品とともに背後へ退いた例である。