エウテルペー
エウテルペ · Euterpe
抒情詩と笛を司るムーサで、名は「よく楽しませる者」を意味する。二管の笛アウロスを持つ姿で表され、竪琴を執るアポローンの系統と対をなす。トラーキア王レーソスの母とされる。
解説
概要
エウテルペー(Εὐτέρπη / Euterpē)は、抒情詩と笛を司るムーサである。名は「よく」と「楽しませる」を合わせた語で、「よく楽しませる者」を意味する。ディオドーロスは、歌を聴く者に教養の恵みによる喜びを与えるからだと説明する。
二本の管を同時に吹くアウロスを発明したとする伝えもあるが、古代の資料の多くはこの楽器の発明をアテーナーか、彼女が捨てた笛を拾ったマルシュアースに帰する。アウロスはディオニューソスの祭儀や悲劇の伴奏に用いられた楽器であり、竪琴を執るアポローンの系統と対をなす。彼女が九柱のなかで管楽器を担うことは、ムーサたちが竪琴だけの女神ではないことを示している。
神話・物語
アポロドーロス(1.3.4)は、河神ストリューモーンとの間にトラーキア王レーソスを生んだのを彼女とする。ただし同じ箇所にカリオペーを母とする説が併記されている。レーソスは『イーリアス』第10巻に現れ、トロイア方に加勢して到着した夜、オデュッセウスとディオメーデースの夜襲によって眠っているところを討たれ、名馬を奪われる。ただしホメーロスはレーソスをエーイオネウスの子とし、母の名を挙げない。
エウリピデスに帰される悲劇『レーソス』では、名を明かさないムーサが母として息子の遺体の上に現れて嘆く。女神は遺体を引き取り、銀を産する地の洞窟で、人にして神なる者として生き続けさせると告げる。このムーサの名は資料によって異なり、エウテルペーのほかカリオペーやテルプシコラーとされる。
図像と象徴
持物はアウロスである。二本の管を手にした姿で、九柱のなかでは容易に見分けがつく。
本ページの主画像は、後2世紀前半のローマの《ムーサの石棺》(ルーヴル美術館 Ma475)に彫られた彼女である。
系譜と関係
父ゼウス、母ムネーモシュネー。九柱の一。ストリューモーンとの子レーソス(カリオペーを母とする異伝あり)。
文化的足跡
近代以降、彼女の名は音楽の寓意として詩や絵画に繰り返し現れる。小惑星(27)エウテルペのほか、南米に自生するヤシの属名 Euterpe にもこの名が与えられており、アサイーヤシ(Euterpe oleracea)はこの属に含まれる。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。