ポリュムニアー
ポリュヒュムニアー · ポリュムニア · Polymnia
神々への讃歌を司るムーサで、名は「多くの讃歌」を意味する。九柱のなかで唯一、ヴェールを纏い指を唇に当てて沈黙する姿で表され、讃歌が言葉になる以前の敬虔さを表すと解されてきた。
解説
概要
ポリュムニアー(Πολύμνια / Polymnia、ポリュヒュムニアーとも)は、神々への讃歌を司るムーサである。名は「多くの」と「讃歌」を合わせた語にあたる。ディオドーロスは、多くの讃歌によって作者たちに不朽の名声を与えるからだとする。ヘーシオドス『神統記』ではポリュムニアーの形で名が挙がる。
九柱のなかで、彼女だけが沈黙の姿で表される。ヴェールを纏い、肘をつき、指を唇に当てて物思いに沈む姿であり、歌の女神のうち一柱が語らない姿を与えられていることは、讃歌が言葉になる以前の敬虔さを表すと解されてきた。
神話・物語
固有の逸話はほとんど伝わらない。アレースの子ケイマッロースとの間にエレウシースに農耕を伝えたトリプトレモスを生んだとする説、オイアグロスとの間にオルペウスを生んだとする説があるが、いずれも主流ではない。オルペウスの母は通常カリオペーとされる。
詩のなかでは、オウィディウス『祭暦』第5巻の冒頭で、5月(マイウス)の名の由来を三柱のムーサが論じる場面に現れる。最初に口を開くのが彼女で、混沌の後に生まれた威厳(マイエスタース)にちなむ名だとする説を語る。
後代の整理では、讃歌のほかに雄弁術、農業、幾何学、瞑想までが彼女の管轄に数えられることがある。担当分野が定まりきらないのは、九柱への分業がもともと後付けであったことの現れである。
図像と象徴
持物を持たないことが持物である。マントに身を包み、柱などに肘をもたせかけて物思う姿勢だけで見分けられる点は、九柱の図像体系のなかで例外的といえる。
本ページの主画像は、後2世紀前半のローマの《ムーサの石棺》(ルーヴル美術館 Ma475)に彫られた彼女である。ヘレニズム期の《ポリュムニアー像》の型を引くもので、同型の彫像がローマ期に数多く複製された。
系譜と関係
父ゼウス、母ムネーモシュネー。九柱の一。トリプトレモスやオルペウスの母とする異伝がある。
文化的足跡
沈黙して物思う姿という造形は、ルネサンス以降の寓意画で「黙想」や「雄弁の準備」を表す型として転用された。小惑星(33)ポリュヒュムニアにもこの名が与えられている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。