ヴィラータ
ヴィラタ(Wikidata ja表記) · マツヤ王 · マルト神群の分身
パーンダヴァが追放最後の一年を身分を隠して過ごしたマツヤ国の王。娘ウッタラーをアルジュナの子アビマニユに嫁がせている人物。
解説
概要
ヴィラータ(Virāṭa / विराट)は『マハーバーラタ』に登場するマツヤ国の王である。第四巻ヴィラータ・パルヴァはその名を冠しており、パーンダヴァ五兄弟が追放最後の一年を身分を隠して過ごした宮廷の主にあたる。マルト神群の分身から生まれたとされる。娘ウッタラーはアルジュナの子アビマニユに嫁ぎ、両家は姻戚となった。クルクシェートラの戦いではパーンダヴァ側に立ち、ドローナに討たれる。
神話・物語
妃はケーカヤ国スータ王の娘スデーシュナー。子にシャンカとウッタラの二人の王子、そして娘ウッタラーがある。妃の兄キーチャカが軍の総司令官を務めた。南インドの伝本はさらに、コーサラの王女スラターを先妻とし、その子シュヴェータがあったと記す。
彼の宮廷を有名にしたのは、パーンダヴァの潜伏である。追放十三年目、身元を知られれば追放がやり直しになるという条件のもと、五兄弟とドラウパディーはそれぞれ姿を変えてこの宮廷に仕えた。ユディシュティラは宮廷賭博師カンカ、ビーマは料理人ヴァッラバ、アルジュナは舞踊の師ブリハンナラー、ナクラは厩役グランティカ、サハデーヴァは牧夫タントリパーラ、ドラウパディーは王妃づきの侍女サイランドリーとなる。王は最後まで彼らの正体に気づかなかった。
一年が終わる直前、カウラヴァ勢がマツヤの牛を奪おうと攻め込んだ。王と将たちが一方の戦線へ出払っていたため、残された王子ウッタラは単身出撃するが、ビーシュマやドローナの軍勢を見て怯む。御者を務めていたブリハンナラー——すなわちアルジュナ——が正体を明かして戦車を駆り、カウラヴァ軍を退けた。ここで潜伏の期限は満了しており、パーンダヴァは素性を明かす。驚いた王は詫び、娘ウッタラーをアルジュナに嫁がせようとしたが、舞踊の師である身では弟子を娘としか見られぬとして辞退され、代わりに子アビマニユとの縁組が成った。
図像と象徴
固有の像容は伝わっておらず、独立した礼拝像の伝統もない。図像に現れるとすれば、正体を明かされて驚く宮廷の場面である。象徴となるのは気づかれなかった宮廷そのもので、一年のあいだ王家の全員を身近に置きながら誰一人見抜けなかったという構図が、この人物の役どころを示している。
系譜と関係
妃はスデーシュナー、子はシャンカ、ウッタラ、ウッタラー。義兄弟にキーチャカ。娘の婚姻によってパーンダヴァと姻戚となり、その孫がパリークシットとしてクル王統を継ぐ。マルト神群の分身とする伝えは、彼をパーンダヴァと同じく神々に由来する存在として位置づける。
文化的足跡
クルクシェートラの戦いでは、二人の子とともにパーンダヴァ側で戦った。十五日目、ドルパダとともにドローナと交え、いずれも討たれる。舅と岳父が同じ日に同じ相手に倒れ、その日のうちにドローナ自身も欺きによって首を落とされるという展開は、報いの連鎖を凝縮した一日として知られる。
第四巻ヴィラータ・パルヴァは、叙事詩のなかでも喜劇的な色合いをもつ巻として読まれてきた。英雄たちが賭博師や料理人や舞踊の師として振る舞う一年は、身分と役割が入れ替わる主題を扱っており、南アジアの演劇伝統でも人気の高い題材となっている。