ウッチャイヒシュラヴァス
ウッチャイシュラヴァス · 馬の王 · インドラの乗騎
乳海攪拌から生まれた七つ頭の白い天馬。馬の王とされてインドラの乗騎となった。カドゥルーとヴィナターの賭けの的にもなった。
解説
概要
ウッチャイヒシュラヴァス(Uccaiḥśravas / उच्चैःश्रवस्)は、インド神話に登場する七つの頭をもつ空飛ぶ馬である。名は「長い耳」あるいは「高く嘶く者」を意味する。神々とアスラが行った乳海攪拌から生まれ、馬のなかの最上、馬の王とみなされる。純白の毛色をもち、インドラの乗騎(ヴァーハナ)として描かれることが多い一方、アスラ王マハーバリの馬とされる場合もある。カドゥルーとヴィナターの賭けの的となった馬でもあり、その尾の色をめぐる欺きが蛇族と鳥族の対立を生んだ。
神話・物語
『マハーバーラタ』は、乳海攪拌から現れた彼をインドラが捕らえて乗騎としたと語る。同じ攪拌からはラクシュミー、アムリタ、その他の秘宝も生まれたが、文献ごとに顔ぶれの異なる十四宝のなかで、彼だけはほぼすべての伝本に共通して現れる。『ラーマーヤナ』『ヴィシュヌ・プラーナ』『マツヤ・プラーナ』『ヴァーユ・プラーナ』などにも同じ由来が記される。
『バガヴァッド・ギーター』では、クリシュナが自らを万物の根源と説く場面で、馬において自分はウッチャイヒシュラヴァスであると述べる。各領域の最上のものを列挙するこの一節において、馬を代表する存在として名が挙げられている。
賭けの挿話も名高い。カシュヤパの妻である姉妹ヴィナターとカドゥルーが、その尾の色をめぐって争った。ヴィナターは白と主張し、カドゥルーは黒と言い張って、負けた者が奴隷となる約定を結ぶ。カドゥルーが子のナーガたちに尾を覆わせたため、尾は黒く見え、彼女が勝った。馬自身は何もしていないにもかかわらず、その毛色が二つの種族の宿命を決めることになる。
異伝も少なくない。12世紀の『ハリハラチャトゥランガ』はブラフマーの供犠から生まれた翼ある白馬とし、『ヴィシュヌ・プラーナ』はプリトゥの即位に続く一連のなかで彼に馬の王の位が与えられたとする。カーリダーサ『クマーラ・サンバヴァ』では、インドラの栄光であるこの馬がアスラのターラカによって天界から奪われたと語られる。
図像と象徴
七つの頭をもつ白い天馬として描かれるのが基本だが、頭数を省いて一頭の白馬として表す作例も多い。大英博物館が所蔵する1800年頃のインド絵画は、その一例である。乳海攪拌の場面では、海から現れる至宝の一つとして画面の上方に配される。象徴となるのはその毛色そのもので、白であるはずの尾が黒く見えるという一点に、この馬をめぐる物語のすべてが集約されている。
系譜と関係
乳海攪拌から生まれたため、通常の系譜をもたない。インドラの乗騎とされる点で、同じく攪拌から現れた白象アイラーヴァタと対をなす。『デーヴィー・バーガヴァタ・プラーナ』は、彼をラクシュミーの兄弟とする挿話を伝える。スーリヤの子レーヴァンタがこの馬に跨ってヴィシュヌのもとを訪れた際、その輝きに見とれたラクシュミーが夫の問いを聞き逃したため、来世で牝馬に生まれるよう呪われたという。
文化的足跡
馬の理想形としての位置づけは古典期を通じて保たれ、詩文において最上の馬を指す常套の比喩となった。近現代では、ジョージ・ハリスンが設立したレーベル、ダーク・ホース・レコードのロゴがこの馬を意匠としたことでも知られる。乳海攪拌の主題が寺院彫刻に繰り返し表されるなかで、白馬の姿もまた東南アジアの作例に受け継がれている。