カドゥルー
カドルー · ナーガの母 · ダクシャの娘
千のナーガを生んだ蛇族の太母。姉妹ヴィナターとの賭けに勝つため子らに欺きを働かせ、従わぬ子らを蛇供祭で滅びるよう呪った。
解説
概要
カドゥルー(Kadrū / कद्रू)は、インド神話に登場する女性で、ダクシャの娘の一人、聖仙カシュヤパの妻である。千の偉大なナーガ王を生んだ太母的な存在であり、シェーシャ、ヴァースキ、タクシャカらはいずれも彼女の子にあたる。姉妹ヴィナターと白馬ウッチャイヒシュラヴァスの尾の色をめぐって賭けを行い、欺きによってこれに勝った。その一連の出来事から発した呪いが、のちの蛇供祭による蛇族の危機を招く。
神話・物語
夫カシュヤパはダクシャの娘を多く娶ったが、なかでも彼女とヴィナターに満足し、二人に望みを叶えると約した。カドゥルーが求めたのは、いずれも等しく偉大な千人の息子である。ヴィナターは数ではなく、姉妹のどの子よりもすぐれた二人の子を望んだ。二人はそれぞれ卵を産み、五百年のあいだ保管する。
賭けの発端は白馬ウッチャイヒシュラヴァスである。その色を問われたヴィナターが白だと答えると、カドゥルーは賭けを持ちかけ、負けた者が勝った者の奴隷となることを条件に、尾だけは黒いと言い張った。翌日に確かめる約束をして帰った彼女は、勝つために千人の子らへ、馬の尾に潜り込んで黒く見せよと命じる。
ところが母の命に従わぬ子が多かった。腹を立てたカドゥルーは軽い気持ちで彼らを呪い、ジャナメージャヤによって滅ぼされるがよいと言い放つ。ナーガが猛毒によって他の生類を圧倒することを常々危惧していたブラフマーはこの呪いを喜んだが、当のナーガたちは母の言葉が必ず成ることを知っていたため、滅亡を避ける手立てを講じなければならなかった。ヴァースキが妹を聖仙に嫁がせ、生まれたアースティーカが蛇供祭を止めるに至る経緯は、この一言に端を発している。
翌日、彼女は子らの働きによって賭けに勝ち、ヴィナターを五百年のあいだ奴隷とした。
図像と象徴
固有の像容は伝わっておらず、独立した礼拝像の伝統もない。図像に現れるとすれば、賭けの場面か、白馬の尾に子らが群がる場面である。象徴となるのは、その名が示す褐色と、千という子の数そのものである。個としてよりも、蛇族という種の起点として記憶されている。
系譜と関係
父はダクシャ、夫は聖仙カシュヤパ、姉妹はヴィナター。千人の子のうち、シェーシャ、ヴァースキ、タクシャカ、そしてマナサーらが名を知られる。姉妹の子ガルダは、母の隷属を解くために働き、以後は蛇と鳥という宿命的な対立の系譜が始まる。
文化的足跡
彼女の物語は『マハーバーラタ』第一巻アーディ・パルヴァに置かれ、叙事詩の枠組みそのものと直結している。賭けの欺き、母の軽率な呪い、そして蛇供祭による危機と和解という連鎖が、本篇に先立つ前史として語られるからである。勝つために子を使い、従わぬ子を呪うという振る舞いは、母なる存在の両義性を示す例としてしばしば論じられる。増殖する力を体現する一方で、その力を自ら損なう者でもある。