サティヤバーマー
サティヤバーマ(Wikidata ja表記) · サトラージトの娘 · ブーミの化身
クリシュナの妃の一人で大地の女神ブーミの化身とされる。魔王ナラカースラとの戦いに自ら加わり、これを射たと語られている。
解説
概要
サティヤバーマー(Satyabhāmā / सत्यभामा)は、クリシュナの妃の一人で、ドヴァーラカーの主要な后妃に数えられる。ヤーダヴァのサトラージトの娘。大地の女神ブーミ(プリティヴィー)の化身とされ、ルクミニーの慎ましさと対をなす気性の激しい妃として描かれる。魔王ナラカースラとの戦いに自ら加わり、天界からパーリジャータの樹を持ち帰らせた説話で知られる。
神話・物語
婚姻の経緯はシャマンタカ宝珠の事件に発する。父サトラージトはスーリヤから日ごとに黄金を生む宝珠を授かっていたが、これをめぐる疑いをクリシュナにかけた。宝珠は実は父の弟が獅子に襲われて失ったものであり、クリシュナは熊王ジャーンバヴァットのもとまで追ってこれを取り戻し、身の潔白を示す。詫びた父は宝珠と娘を差し出したが、クリシュナは宝珠を受けず娘のみを妃に迎えたと語られる。
彼女を特徴づけるのはナラカースラ討伐である。この魔王は女神アディティの耳飾りを奪い、一万六千の女を囚えていた。ただし、彼を討てるのは母である大地の女神だけという恩寵をもっていた。クリシュナはガルダに乗り、彼女を伴って出陣する。夫が倒れたと見た彼女が弓をとって魔王を射たことで、恩寵の条件は満たされた。大地の女神の化身である彼女が、大地から生まれた魔王を討つという構図になっている。
パーリジャータの樹の説話も名高い。天界から持ち帰られたその花をクリシュナがルクミニーに与えたと聞いた彼女は、樹そのものを求めた。クリシュナはインドラと戦ってこれを奪い、彼女の庭に植える。ただし枝がルクミニーの庭へ伸びて花はそちらに落ちたと伝えられる。求めたものは得たが、望んだ結果は得られなかったという結末である。
夫を黄金で量って自らのものとしようとしたトゥラーバーラムの挿話も広く語られる。宝を積み上げても秤は動かず、ルクミニーが捧げた一枚のトゥラシーの葉によって傾いた。もっともこれらの挿話はいずれも『バーガヴァタ・プラーナ』の本文ではなく、後代の付加である。
図像と象徴
クリシュナの傍らに立つ妃として、ルクミニーと左右に配される作例が多い。南インドの寺院では、主神の両脇にこの二人を置く三尊形式が定型となっている。象徴となるのはパーリジャータの樹であり、望みを通す力と、それが必ずしも思いどおりの結果を生まないという二面を担っている。
系譜と関係
父はサトラージト。夫はクリシュナ、子はバーヌら十人と伝えられる。ルクミニーとは正妃の位を分かち合う関係にあり、伝統的な語りでは対照的な性格として描かれてきた。ルクミニーがラクシュミーの化身とされるのに対し、彼女はブーミの化身とされ、ヴィシュヌの二人の配偶神という枠組みが背後にある。
文化的足跡
南インドの寺院では、クリシュナとルクミニー、サティヤバーマーの三尊が広く祀られる。ケーララのクーディヤーッタムやアーンドラのクーチプーディ舞踊には、パーリジャータをめぐる彼女の嫉妬を主題とする演目があり、そこでは強い自己主張をもつ女性として演じられる。
近現代の再話では、慎ましいルクミニーと激しいサティヤバーマーという対比そのものが、女性像の類型として論じられることがある。もっとも原典において彼女の激しさは非として描かれておらず、ナラカースラを討ったのは彼女であるという一点が、その位置づけを決めている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。