モーモス
モモス · クエレッラ · Momus
非難と皮肉を人格化したニュクスの子。神々の作品すべてに難癖をつけてオリュンポスを追放された。失われた叙事詩ではトロイア戦争を起こすことを建議したとされる。
解説
概要
モーモス(Μῶμος、「非難」)は、ギリシア神話の神である。非難や皮肉を擬人化したもの。ローマのクエレッラ(「苦情」)と同一視される。
神話・物語
ヘーシオドス『神統記』によれば、夜の女神ニュクスが相手を必要とせずに産んだ子の一人であり、モロス(定業)、ケール(死の運命)、タナトス(死)、ヒュプノス(眠り)、オネイロス(夢)、ヘスペリデス、モイライ、ネメシス(義憤)、アパテー(欺瞞)、ピロテース(愛欲)、ゲーラス(老い)、エリス(争い)と兄弟姉妹である。
失われた叙事詩『キュプリア』によれば、十年に及ぶトロイア戦争はモーモスの建議によって起きた。大地が人間の重さに苦しんでいたとき、ゼウスは人間を減らす方法を考えた。モーモスは、雷霆や洪水ではなく、テティスを人間に嫁がせてその子アキレウスを生ませ、美しいヘレネーを生ませて、大戦を起こすことを提案したという。
アイソーポス(イソップ)の寓話では、ゼウス、ポセイドーン、アテーナーが作品の出来を競い、モーモスが判定を務める。ゼウスの作った人間には胸に窓がなく心を覗けない、ポセイドーンの牡牛は目が角の下にあって突く先が見えない、アテーナーの家は車輪がなく悪い隣人から逃げられない——と、すべてに難癖をつけた。ゼウスは怒ってモーモスをオリュンポスから追放した。
ルーキアーノス『神々の会議』では、モーモスが神々の乱れを告発する役を演じる。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
この神を規定するのは、完璧なものにも欠点を見つけるという性質である。神々の作品に難癖をつけ、そのために追放される。しかし『キュプリア』の版では、その建議が大戦を起こす。非難の神が、歴史を動かしている。
関わる神格・伝承
母はニュクス。兄弟姉妹はタナトス、ヒュプノス、ネメシス、エリスら。
アプロディーテーにさえ難癖をつけようとしたが、何も見つけられず、ただ歩き方がうるさいと言ったという話もある。
文化的足跡
近世ヨーロッパにおいて、モーモスは風刺の擬人像として好まれた。道化や批評家の守護神とされ、「モーモスの子」は批評家を指す言い回しになった。
日本語圏でこの名が挙げられることはまずない。しかしイソップの寓話——胸に窓がないという難癖——は、比較的よく知られている。