アパテー
アパテー · アパテ · フラウス
ギリシアの欺きの女神で、ニュクスの子。対極は真実の女神アレーテイア。ダレイオスの壺に二本の松明を持つ女として名を記されて描かれる。ローマではフラウス、男性形はドロス。
解説
概要
ギリシア神話において、アパテー(Apate)は欺きの女神にして擬人化である。母は夜の擬人化ニュクスである。
ローマ神話における対応者はフラウス(詐欺)であり、その男性の対応者はドロス(欺瞞)で、キケローによればいずれもニュクスとエレボスの子である。その対極はアレーテイア(真実)の女神である。
系譜と位置
ヘーシオドス『神統記』において、アパテーはピロテース(愛欲)の直前に挙げられる。欺きと愛欲が並置されることは、恋愛における欺瞞という主題を示唆する。
新プラトン主義の哲学者プロクロスやプロティーノスは、エロースとアプロディーテーを論じる文脈でアパテーに言及する。
パンドーラーとの関係
パンドーラーの壺から飛び出した災いの一つとされることがある。ただしヘーシオドスは災いの内訳を列挙していない。
一部の伝えでは、アパテーはゼウスがヘーラーを欺くのを助けたとされる。しかしこれらは後代の付加である。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ダレイオスの壺(前340〜320年頃)に描かれたアパテーの部分である。
ダレイオスの壺は、ペルシア戦争を主題とした大型の赤絵式クラーテルであり、その上段に神々と擬人神が描かれる。アパテーは二本の松明を持つ女として表され、その名が記されている。
擬人神が名を記されて描かれるという点が注目される。姿だけでは区別できないため、名の銘が必要であった。抽象概念の神格化は、視覚芸術において固有の困難を抱える。
関わる神格・伝承
母はニュクス。対極はアレーテイア(真実)。ローマではフラウス。男性形はドロス。
ニュクスの子らのうち、図像に描かれる数少ない一柱である。
文化的足跡
「アパテー」の語は、ギリシア語で「欺き」を意味する日常語であり、修辞学において「聴衆を欺く技術」を論じる文脈で用いられた。ゴルギアースは、悲劇において「欺く者は欺かぬ者より正しく、欺かれる者は欺かれぬ者より賢い」と述べた。