アパテー
アパテー · アパテ · フラウス
ギリシアの欺きの女神で、ニュクスの子。対極は真実の女神アレーテイア。ダレイオスの壺に名を記されて描かれる。ローマでは欺きをフラウスと呼び、キケローはこれを夜と闇の子に数えた。
解説
概要
アパテー(Ἀπάτη / Apate)は、欺きを擬人化した女神である。ヘーシオドス『神統記』では、ニュクスが夫なしに生んだ子の一柱として名が挙げられる。固有の物語はほとんどなく、系譜の一覧と、一点の壺絵に名を記された姿によって知られる。
神話・物語
『神統記』(224行)は、ニュクスの子らを並べるなかで、ネメシスに続けてアパテーとピロテース(愛の交わり)、ゲーラス(老い)、エリス(争い)を挙げる。
ラテン語の世界では、キケロー『神々の本性について』(3.44)が、エレボスと夜の子の一つとしてフラウス(欺き)を挙げる。男性の擬人化である策略ドルス(ギリシア語ドロス)も、ヒュギーヌス『神話集』序では同じく夜の子らの一覧に入る。
語としての「アパテー」は、『イーリアス』第14巻の、ヘーラーがアプロディーテーの帯を借りてゼウスを眠らせる場面の呼び名「ゼウスの欺き」(ディオス・アパテー)にも現れる。ただしそこで女神アパテーが登場するわけではない。
図像と象徴
本サイトの主画像は、いわゆる「ダレイオスの壺」(前340〜320年頃、ナポリ国立考古学博物館蔵)の部分である。南イタリアのアプリアで作られた大型の渦巻型クラーテールで、中段にはペルシア王ダレイオスの前の会議の場面が描かれる。上段の神々の列のなかに、両手に松明を持つ女の姿があり、「アパテー」の銘が添えられている。ペルシアの王を欺いて破滅へ誘う力として、ここに置かれたとみられる。
系譜と関係
母はニュクス(のちの伝えではエレボスとの子)。ヘーシオドスの一覧では、ネメシス、ピロテース、ゲーラス、エリスと同じ母から生まれる。ローマのフラウスが対応する。
文化的足跡
「アパテー」の語は、のちに修辞学や劇論で「錯覚させること」の意味でも用いられた。ゴルギアスは、悲劇は観客を欺き、欺かれる者のほうが賢いと述べたと伝えられる。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。