ピロテース
ピロテース · ピロテス · Philotes
愛情・友愛・性交を擬人化した小さな女神で、ニュクスの子。忌むべきものが並ぶニュクスの子らのなかで例外的に肯定的だが、欺きと老いに挟まれて列挙される。エンペドクレースの宇宙論では争いと対をなす原理となった。
解説
概要
ギリシア神話において、ピロテース(Philotes)は愛情、友愛、性交を擬人化した小さな女神あるいは精霊(ダイモーン)であった。
系譜
ヘーシオドス『神統記』において、ピロテースはニュクス(夜)の子の一人と記される。ローマの著者が与えた後代の系譜では、ニュクスとエレボスの子とされる。
ニュクスの子らの大半が忌むべきもの——死、老い、欺き、不和——であるなかで、ピロテースは例外的に肯定的な概念である。ただし夜の子であることは、性愛が夜に属することを示す。
『神統記』の列挙において、ピロテースはアパテー(欺き)とゲーラス(老い)のあいだに置かれる。欺きと老いに挟まれた愛欲という配置が、この概念の両義性を示唆する。
概念としてのピロティス
ホメーロスの詩において、ピロテース(あるいはピロテース)は「愛」「友情」「性交」を意味する日常語である。「ピロテーティ・カイ・エウネー」(愛と褥において)は、性的な結合を指す定型句である。
エンペドクレースの哲学において、ピロティア(愛)はネイコス(争い)と対をなす宇宙の二原理である。四元素を結合させるのが愛、分離させるのが争いであり、両者の交替によって世界が生成消滅する。抽象概念の神格化が、自然哲学の原理へと展開した例である。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ティツィアーノ《聖愛と俗愛》である(1514年、ボルゲーゼ美術館蔵)。愛の二つの相を主題とする近世の作例である。
固有の古代の図像は伝わらない。名のみが伝わる擬人神である。
関わる神格・伝承
母はニュクス。アプロディーテー、エロースと領域を共有するが別の神格である。
北米に固有の蝶の属フィロテス(Philotes)は、この女神の名を負う。
文化的足跡
エンペドクレースの「愛と争い」の宇宙論は、西洋の自然哲学において最も早い二元論の一つとして、繰り返し論じられてきた。