ピロテース
ピロテース · ピロテス · Philotes
愛情・友愛・性交を擬人化した小さな女神で、ニュクスの子。忌むべきものが並ぶニュクスの子らのなかで例外的に肯定的だが、欺きと老いに挟まれて列挙される。エンペドクレースの宇宙論では争いと対をなす原理となった。
解説
概要
ピロテース(Φιλότης / Philotes)は、愛情と、とりわけ愛の交わりを擬人化した存在である。ヘーシオドス『神統記』では、ニュクスが夫なしに生んだ子の一柱として名が挙げられる。固有の物語も確かな図像ももたない。
神話・物語
『神統記』(224行)は、ニュクスの子らを並べるなかで、アパテー(欺き)とピロテースを続けて挙げ、そのあとに「忌まわしい老い」ゲーラスとエリス(争い)を置く。死や争いと同じ母から生まれていることは、夜が愛の交わりの時でもあることを考えれば不思議ではない。欺きと愛が隣り合う配列には、恋における欺きを読み取る解釈がある。
普通名詞としてのピロテースは、ホメーロスで「親しさ」「友愛」から「愛の交わり」までを広く指す。「愛と床において」(ピロテーティ・カイ・エウネー)という言い回しは、男女が結ばれることを表す定型句である。
概念としてのピロテース
前5世紀の哲学者エンペドクレースは、世界を成り立たせる二つの力として、ピロテース(愛。ピリアーとも呼ぶ)とネイコス(争い)を立てた。愛は四つの元素を結び合わせ、争いはそれを引き離す。二つの力が交互に優位に立つことで、世界は生成と消滅を繰り返すとされる。ヘーシオドスの系譜で名だけが挙げられた愛と争いが、自然を説明する原理として取り上げ直されている。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
愛の擬人像として図像を得たのは、エロースやヒメロス、ポトスといった若者の姿の神々であり、ピロテースを名指しできる古代の作例は知られていない。
系譜と関係
母はニュクス。ローマの著者は父をエレボスとする。愛の領域をアプロディーテーやエロースと分け合うが、別の存在である。
文化的足跡
北米に分布するシジミチョウ科の一属フィロテス(Philotes)は、この名による。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。