メラムプース
メランプース · メラムプス · メランプス
ギリシア神話最初の予言者とされる人物。蛇に耳を清められて鳥の言葉を解し、薬と浄めによる治療を初めて行ったと伝えられる。
解説
概要
メラムプース(Μελάμπους / Melampūs)は、ギリシア神話における最初の予言者とされる人物である。名は「黒い足」を意味する。占術を自ら編み出し、薬と浄めの儀礼による治療を初めて行ったとされ、その子孫からアムピアラーオス、ポリュイードス、テオクリュメノスといった予言者が次々に現れた。
テイレシアースが神から一方的に力を与えられた予言者であるのに対し、メラムプースの能力は偶然と学習の積み重ねとして語られる。この違いは、ギリシアにおける予言が神憑りと技術の二面を持っていたことを映している。
神話・物語
能力の由来は次のように語られる。館の前の樫に子連れの牝蛇が住んでいたが、召使たちが親蛇を殺した。彼は死骸を丁重に火葬し、残された子蛇を育てた。成長した蛇は、眠る彼の両耳を舌で清めた。翌朝、彼は鳥の声が意味を持って聞こえることに驚き、そこから鳥占いの術を組み立てる。さらに犠牲獣の臓腑を読む術を習得し、アルペイオス河畔でアポローンに出会って、並ぶ者のない予言者となった。
弟ビアースがネーレウスの娘ペーローに恋したとき、その求婚の条件は、ピュラコスが番犬に守らせる牝牛の群れを連れてくることであった。メラムプースは自分が捕らえられ一年後に牛を得て戻ると予言したうえで、そのとおりに盗みに入って投獄される。一年が過ぎようという頃、彼は天井の梁にひそむ虫たちの会話を聞き、梁がまもなく崩れることを知って牢の移動を願い出た。移された直後に元の牢は落ちた。
これを見たピュラコスは、子のできない息子イーピクロスのために助言を求める。呼び寄せた禿鷹が語ったところでは、幼いイーピクロスは父が羊を去勢する血まみれの小刀に怯えて逃げ、ピュラコスはその小刀を聖なる樫に突き立てたまま忘れた。樹皮に覆われたその刃の錆を十日間飲ませれば子が生まれるという。そのとおりにして孫ポダルケースが生まれ、彼は報酬の牛を得て弟の結婚を成立させた。恐怖の記憶が原因で、それを引き起こした物の一部が薬になる——この筋立ては、ギリシアの治療説話のなかでも際立って具体的である。
最も知られるのはプロイトスの娘たちの治療である。ディオニューソスの祭を拒んだため、あるいはヘーラーの木像を侮ったために狂った娘たちを癒すと申し出て、国土の三分の一を求めた。高すぎると断られると狂気は国中の女に広がり、王が折れたときには弟ビアースの分としてさらに三分の一を要求した。屈強な若者を集め、自ら神憑りのように踊りながら女たちを山からシキュオーンへ追い立て、浄めの儀礼で正気に戻す。長女イーピノエーだけは間に合わなかった。彼と弟はこうしてアルゴスの地の三分の二を得、癒した娘たちを妻とした。
図像と象徴
古代の図像は知られていない。予言も治療も、一枚の画面に収まる所作を持たない。壺絵が好んだのは怪物や戦いであって、耳を舐められる場面でも錆を飲ませる場面でもなかった。本ページに主画像を置いていないのはこのためである。
その一方で、彼の子孫にあたるアムピアラーオスは、出征を前に俯く姿として陶画に繰り返し描かれた。予言者が図像になるのは、知っていることを言えない場面に置かれたときである。
系譜と関係
父はアミュターオーン、母はエイドメネー。弟にビアース。妻はプロイトスの娘イーピアナッサ、あるいはその孫娘イーピアネイラとされ、子にアンティパテース、マンティオス、アバース、プロノエー、マントーらの名が挙がる。なお、このマントーはテイレシアースの娘マントーとは別人である。
メラムプースの家系はメランポディダイと呼ばれ、テーバイ攻めのアムピアラーオス、メドゥーサ退治の後にグラウコスを蘇生させたポリュイードス、『オデュッセイア』でオデュッセウスの帰還を予言するテオクリュメノスへと続く。予言の力を血として伝える家という発想は、ここに最もはっきり現れている。
文化的足跡
ヘーロドトスは、彼がエジプトからディオニューソスの儀礼をギリシアへもたらしたと述べる。ギリシアの神格をエジプトの神と重ねるインテルプレタティオ・グラエカの早い例であり、同時に、ディオニューソス崇拝を外来のものとみなす古代の見方を伝えている。
ヘーシオドスの名に帰される叙事詩『メランポディア』は彼を主題としたと伝えられるが、断片しか残らない。メガラ地方のアイゴステナには彼の神域があり、毎年の祭が行われていた。予言者が英雄として祀られた例である。