レヴィアタン
リヴァイアサン · レビヤタン · リヴヤタン
旧約聖書『ヨブ記』が神の御業の例として語る海の怪物。ウガリット神話の七頭の蛇リタンに名を発し、中世以降は嫉妬を司る悪魔とされ、近代にはホッブズが国家の比喩に用いた。
解説
概要
レヴィアタン(ヘブライ語 לִוְיָתָן)は、旧約聖書に現れる海の怪物である。名は「結合させる」「編み込む」を意味する語根に遡り、「ねじれた」「渦を巻いた」ものを指すと解される。現代ヘブライ語では鯨を意味する語である。伝統的な図像は巨大な鯨・魚・鰐であり、後世には蛇や竜としても描かれた。一神教の伝承の怪物のなかで、古代西アジアの神話との接続がもっとも明瞭に追える存在である。
神話・物語
言及は『ヨブ記』3章8節と41章、『詩篇』74章14節と104章26節、『イザヤ書』27章1節に及ぶ。もっとも詳しいのは『ヨブ記』41章で、神みずからの言葉のなかで、人知を超えた御業の例として語られる。背には盾のような鱗が並び、くしゃみは光を放ち、両目は朝日のようで、口からは炎を、鼻からは煙を吐く。海を鍋のように沸かし、いかなる武器も通らず、恐れを知らない。地上にこれに並ぶものはないとされる。
その位置づけは箇所によって揺れる。『詩篇』104章では神が戯れるために造った被造物にすぎないが、『詩篇』74章では神が打ち殺した相手であり、『イザヤ書』27章では審判の日に神が殺す相手である。神に従属する被造物と、神が倒すべき敵と、二つの像が同じ書物のなかに併存している。
ユダヤの伝承はさらに筋を足す。レヴィアタンとベヒモトは終末に相争い、ベヒモトは角で突き、レヴィアタンは鰭で刺して相打ちに倒れ、その肉は義人たちの食物として供される(『レビ記ラッバー』13:3)。ラビ・ヨハナンは、レヴィアタンがかつて雌雄一対であり、繁殖して世界を滅ぼすことを恐れた神が雄を去勢し雌を殺したと語ったと伝えられる(『ババ・バトラ』74b–75a)。
図像と象徴
ユダヤの伝承では、丸く輪を描く姿勢の魚として描かれることが多い。『イザヤ書』の「曲がりくねる蛇」に基づく表現とされる。七十人訳は『ヨブ記』3章で「巨大な鯨」、他の箇所では「竜」と訳し、ウルガタは一貫して音写を用いた。日本語訳でも文語訳は『ヨブ記』41章に「わに」を充てている。訳語の揺れがそのまま、この怪物の輪郭の定まらなさを示している。
ギュスターヴ・ドレが1866年の聖書挿絵に刻んだ《レヴィアタンの破壊》は、近代におけるこの怪物の代表的な図像となった。
系譜と関係
起源はウガリット神話のロタン(リタン、ltn)に求められる。『バアル・サイクル』は「逃げる蛇ロタンを打ち、曲がりくねる蛇を仕留め、七つの頭を持つ者を屠るとき」と歌い、『イザヤ書』27章1節の「逃げる蛇レビヤタン、曲がりくねる蛇レビヤタン」はその翻案と考えられている。ロタンは、嵐の神バアルに敗れる海の神ヤムの異名、あるいはその眷属の名である。「主神と海との戦い」「七つの頭を持つ蛇」というモチーフは古代西アジアに広く分布しており、マルドゥクとティアマトの戦いもその一つに数えられる。
聖書のなかでは、海の怪物を指すタニーン、およびラハブと同一視ないし混同される。キリスト教では『ヨハネの黙示録』の七つの頭を持つ赤い竜と結びつけられることもある。
文化的足跡
中世以降、レヴィアタンは悪魔として扱われるようになった。コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』は地獄の海軍大提督とし、悪魔の位階でサタン・ベルゼブブに次ぐ第3位に置く。『術士アブラメリンの聖なる魔術の書』はサタン、ルシファー、ベリアルと並ぶ四大君主に数えた。七つの大罪では嫉妬を司る悪魔とされ、嫉妬が蛇で表されることと、その海蛇めいた姿とが重ねられている。
近代の用法はこの名を怪物から引き離した。トマス・ホッブズは『リヴァイアサン』(1651年)で、社会契約によって成る国家をこの怪物になぞらえつつ、それはむしろ人間に平和と防衛を保障する「地上の神」と呼ぶべきだと述べている。英語の leviathan は今日、巨大なものや大人物を指す普通名詞である。2010年にペルーで発見された中新世の鯨には、この名にちなむ学名リヴィアタン・メルビレイが与えられた。