ガブリエル
ガウリイル · ジブリール · ジブラーイール
神の言葉を伝える大天使。ダニエルに幻を解き明かし、マリアにイエスの誕生を告げ、ムハンマドにクルアーンの啓示をもたらした。西洋美術では受胎告知の場面に、白百合を携えて現れる。
解説
概要
ガブリエル(ヘブライ語 גַברִיאֵל)は、名を「神の人」と訳される大天使であり、三つの一神教を通じて一貫して「神の言葉を伝える者」の役を負う。旧約聖書では『ダニエル書』にその名が現れる。日本ハリストス正教会では教会スラヴ語読みからガウリイルと呼ぶ。三つの伝統にまたがるこの天使の像は、一神教の伝承がどこで重なり、どこで分かれるかをよく示している。
神話・物語
『ダニエル書』8章で、預言者ダニエルが見た雄山羊と雄羊の幻の意味を解き明かすために現れ、続いてキュロス王の出現とエルサレム神殿の再建を語る。
キリスト教では告知の天使である。『ルカによる福音書』では祭司ザカリアに洗礼者ヨハネの誕生を告げ、次いでマリアのもとを訪れてイエスの誕生を告げる。この出来事は西方教会で「受胎告知」、正教会で「生神女福音」と呼ばれ、それぞれの教会暦に記念日を持つ。最後の審判にラッパを吹き鳴らして死者を起こすのもガブリエルであるとされるが、聖書本文にその名はなく、後代の伝承による。
イスラームではジブリールと呼ばれ、天使のうち最高位に置かれる。610年ごろヒラー山の洞窟で瞑想していたムハンマドの前に現れて「誦め」と命じ、以後二十三年にわたってクルアーンの各章を伝えたとされる。ムハンマドをブラークに乗せてエルサレムへ導いた「夜の旅」にも現れる。伝説はその姿を、千六百枚の翼を持ち、両目のあいだに太陽を宿す者として語る。
図像と象徴
西洋美術における最大の主題は受胎告知である。ガブリエルは優美な青年として、マリアの純潔を示す白百合を携えて描かれることが多い。フラ・アンジェリコが1430年代に繰り返し描いた《受胎告知》は、その典型を確立した作例である。画面の左に天使、右にマリアを配するのが西方の定石となった。
ただし東方教会では事情が異なる。ビザンティンのイコンに西方のような優美で女性的な表現は見られず、ガウリイルはミハイルとともにイコノスタシスの南門・北門に、威厳ある姿で描かれる。同じ天使が、教会の分かれとともに別の顔を持った。
系譜と関係
キリスト教ではミカエル・ラファエルと合わせて三大天使、ユダヤ教ではウリエルを加えて四大天使とされる。天使の位階における位置づけは大天使、あるいは熾天使とされる。
3世紀のラビ、シメオン・ベン・ラキシュは、天使という観念そのものがバビロン捕囚期にバビロニアの宗教から取り込まれたものだと説いた。この見方は現代の研究者にも広く受け入れられており、ガブリエルの名の起源をカルデアに求める説もある。
文化的足跡
中世叙事詩『ローランの歌』では、カール大帝にローランへデュランダルを与えるよう指示し、斃れたローランの魂を天へ運ぶ。ミルトン『失楽園』(1667年)ではエデンの園を守る天使長として登場する。カトリック教会は通信事業の守護者とし、祝日は9月29日である。ラッパを吹く天使の像は、最後の審判を主題とする教会美術のほとんどに置かれている。