ロタン
リタン · リーターヌ · ローターン
ウガリット文書に現れる七つの頭を持つ海の大蛇。名は「とぐろを巻いた」を意味する。旧約聖書のレヴィアタンは名も称号もこの蛇から直接受け継いでおり、ウガリット神話が聖書に流れ込んだことを文言のレベルで示す。
解説
概要
ロタン(ウガリット語 ltn、𐎍𐎚𐎐)は、ウガリットの粘土板文書に現れる海の大蛇である。名は「とぐろを巻いた」を意味する形容詞に由来し、それがそのまま固有名として用いられている。嵐の神バアルに倒される怪物として語られ、その名と称号は旧約聖書のレヴィアタンに直接受け継がれた。カナン・フェニキアの神話が聖書へ流れ込んだことを、文言のレベルで確かめられる数少ない例である。
神話・物語
『バアル・サイクル』において、死の神モートがバアルへ送る言葉のなかにこの名が現れる。逃げる蛇リタンを打ち、曲がりくねる蛇を仕留め、七つの頭を持つ暴れ者を屠ったとき——モートはバアルの功業をこう数え上げる。
ロタンは三つの称号で呼ばれる。逃げる蛇(bṯn brḥ)、曲がりくねる蛇(bṯn ʿqltn)、そして七つの頭を持つ強者(šlyṭ d šbʿt rašm)である。ただし第二の称号については粘土板に欠損があり、この蛇に属するかどうかは確定していない。
倒したのが誰かは、一つに定まらない。上の一節はバアルの功業として語られるが、別の粘土板では女神アナトが自らの手柄として同じ怪物を数え上げる。竜トゥンナヌに轡をかけ、曲がりくねる蛇を打ち、七つの頭を持つ強者を仕留めた、と。バアルとアナトのどちらが屠ったのか、両方の伝えが並び立っていたのかは、断片からは決められない。
海の神ヤムとの関係も定まらない。ロタンをヤムに仕える眷属とみる読みが一般的だが、ヤムその人の異名とみる説もある。ウガリット文書は海の神を竜あるいは蛇と結びつけて語っており、ヤム、ロタン、トゥンナヌという三つの名が別々の存在を指すのか、一つの存在の三つの呼び名なのかは、粘土板の欠損もあって明らかでない。
図像と象徴
ロタンを表したと確実に同定できる図像は伝わっていない。本項も主画像を掲げない。
ただし、七つの頭を持つ蛇という主題そのものは、ウガリットより古い西アジアの図像に現れる。前18〜16世紀のシリアの印章に刻まれた蛇テムトゥムを、ロタンの先行形とみる説がある。メソポタミアのテル・アスマルから出土した初期王朝時代の円筒印章にも、二柱の神が七つ頭の蛇と戦う場面が刻まれている。七頭の蛇は、ウガリットで生まれた造形ではなく、それ以前から西アジアに分布していた型である。これらはロタンの描写ではないため、本項の図像としては採らない。
系譜と関係
『イザヤ書』27章1節は、主が逃げる蛇レビヤタンと曲がりくねる蛇レビヤタンを罰し、海にいる竜を殺すと書く。ウガリット語の bṯn brḥ と bṯn ʿqltn が、ヘブライ語の nāḥāš bāriaḥ と nāḥāš ʿaqallātôn に語ごとに対応している。W・G・ランバートは2003年、この一節がウガリットの本文からの直接の引用であると論じた。
ロタンとレヴィアタンは、名も同源である。本サイトはこの二者に等価関係を登録しているが、その種類は cognate——名が同じ祖形に遡る——である。名が対応し、称号が語ごとに対応するこの関係は、比較という誘惑で述べた「同源と言える」条件を、もっとも明瞭に満たす例の一つである。
なお、ギリシアの竜ラードーンの名をロタンに遡らせる説が古くからある。ただしこれは提案された語源であって確定しておらず、本サイトは等価関係に登録していない。
文化的足跡
レバノンのベカー高原を流れるリタニ川は、この蛇の名を負う。川そのものがロタンの化身と考えられていたことによる。
主神が海の怪物を倒して秩序を立てるという主題は、西アジアからギリシア、インド、北欧まで広く分布する。マルドゥクとティアマト、ヤハウェとレヴィアタン、ゼウスとテューポーン、インドラとヴリトラ。ドイツ語圏の学術用語ではこれをカオスカンプ(混沌との戦い)と呼ぶ。
ただし、この主題が広く分布することは、それ自体では系譜の共有を意味しない。ロタンとレヴィアタンのように名と文言が対応する場合にのみ、伝播を言うことができる。同じ型に見える戦いのうち、どれが親子でどれが他人かを見分けることが、この主題を読むときの要点である。