ミカエル
ミハイル · ミーカーイール · ミカエール
ユダヤ教・キリスト教・イスラームが共有する大天使。天の軍勢を率いて竜と戦う武人として描かれ、剣と、魂を量る秤を持つ。イスラエルの守り手であり、後には兵士や諸国の守護者とされた。
解説
概要
ミカエル(ヘブライ語 מִיכָאֵל)は、ユダヤ教・キリスト教・イスラームがともに伝える大天使である。名は「神のごとき者は誰か」と訳され、『タルムード』ではこれを反語と解する。旧約聖書での言及は『ダニエル書』10章と12章に限られるが、そこでイスラエルの守り手として現れて以降、諸伝承のなかで役割を増やし続けた。本サイトはこれを一神教の伝承における図像と物語の歴史として扱う。
神話・物語
『ダニエル書』では、預言者ダニエルのもとへ遣わされた者を助けるため、ペルシアの天使たちと戦う。『ヨハネの黙示録』12章では天で竜と戦ってこれを投げ落とし、『ユダの手紙』ではモーセの遺体をめぐってサタンと論じ合いながら、相手を罵ることはしなかったと伝えられる。
ラビ伝承はさらに多くを語る。ロトをソドムから逃したのも、イサクが犠牲にされるのを止めたのも、イスラエルに侵攻したセンナケリブの軍勢を破ったのもミカエルであるという。堕天使サマエルが天から落とされるとき、ミカエルの翼をつかんで道連れにしようとしたが、神みずからが引き上げたと伝える話もある。天使への行き過ぎた崇敬が戒められるようになってからも、ミカエルだけは「イスラエルの守り手」として特別な位置を保った。イスラームではミーカーイールと呼ばれ、ジブリールらと並ぶ大天使に数えられる。
図像と象徴
図像は一貫して武人である。甲冑をまとい、剣あるいは槍を手に、足下の竜または悪魔を踏みつける。ルネサンス以降は燃える剣を持つ姿も現れた。もう一つの持物が秤である。最後の審判において魂の軽重を量る者とされたことによる。この職掌はエジプトのマアトの羽根や閻魔の帳簿と機能の上でよく似ているが、系譜としてつながるわけではない。
グイド・レーニが1636年ごろに描いた《悪魔を打ち負かす大天使ミカエル》は、この図像の決定版となった。正教会ではガウリイル(ガブリエル)とともにイコノスタシスの門に描かれる。
系譜と関係
天使に系譜はない。関係は職掌と序列によって語られる。天使の位階では、偽ディオニシウス・アレオパギタの九階級のうち大天使は下から二番目に置かれるが、中世初期まで大天使が最高位と考えられていた名残から、ミカエルを熾天使に数える伝承もある。ラファエル・ガブリエルと合わせて三大天使、ウリエルを加えて四大天使とするのが一般的である。敵対者として語られるのは、竜、サタン、あるいは堕天使サマエルである。
文化的足跡
崇敬の跡は地理に残る。ガルガーノ山の聖ミカエル聖堂(492年)、フランスのモン・サン=ミシェル、そしてローマのハドリアヌス廟——590年にミカエルが現れて疫病が終息したという伝承から、この廟はサンタンジェロ城と呼ばれるようになった。カトリック教会は9月29日をガブリエル・ラファエルと共通の祝日とし、兵士・警察官・消防士の守護聖人とする。ジャンヌ・ダルクに啓示を与えたのもミカエルであると伝えられる。名は人名としてマイケル、ミシェル、ミゲル、ミハイルなど各国語に定着した。