アースティーカ
アースティカ · ジャラトカールの子 · ナーガ・パンチャミーの由来
ジャナメージャヤの蛇供祭を止めて蛇族を絶滅から救った聖仙。聖仙ジャラトカールと蛇の女神マナサーの子で、両族の血を引く仲裁者である。
解説
概要
アースティーカ(Āstīka / आस्तीक)は、ヒンドゥーの聖仙である。聖仙ジャラトカールと蛇の女神マナサーの子で、蛇王ヴァースキの甥にあたる。ジャナメージャヤが父の仇を討つために営んだ蛇供祭を、まだ少年でありながら説き伏せて止めさせ、ナーガ族を絶滅から救った。バラモンと蛇族の双方の血を引く者が両者のあいだを取り持つという構図によって、『マハーバーラタ』の前史は閉じられる。
神話・物語
誕生の経緯は『デーヴィー・バーガヴァタ・プラーナ』が伝える。聖仙ジャラトカールが森をさまよっていたとき、草の葉一枚を頼りに崖の上へ逆さに吊り下がる者たちに出会った。それは彼の祖霊であり、彼に子がなく血統が絶えようとしているために苦しみに落ちていた。祖霊を救うため、彼は自らと同じ名をもつ女を娶ると定める。訪ねた先はナーガ王ヴァースキであった。ヴァースキの妹マナサーは、別名をジャラトカールといったのである。
母カドゥルーの呪いによって蛇族が滅びる定めにあることを知っていたヴァースキにとって、この縁組は一族の存続を賭けた手であった。二人は結ばれるが、婚姻は長く続かない。プシュカラの地で、ある夕べ、ジャラトカールは妻の膝を枕に眠り込み、日没の勤行を行わぬままであった。夫を起こすべきか、勤めを欠かせるべきか。迷った末に彼女は起こす道を選ぶ。怒った聖仙は妻のもとを去ろうとした。許しを乞う彼女に、彼はすでに胎に子が宿っていること、その子は輝かしく信心深い者となるであろうことを告げた。こうして生まれた子がアースティーカである。彼はブリグの子チヤヴァナのもとで学業を修めた。母がシヴァに帰依していたため、彼もまたその信者となったと同書は記す。
そして蛇供祭である。父パリークシットをタクシャカに咬み殺されたジャナメージャヤは、蛇族を根絶やしにすべく大祭を営んだ。真言に引かれた蛇が次々と火に落ちるなか、彼は王のもとへ赴き、ついにこれを止めさせる。すでに捕らえられていたタクシャカも解き放たれ、以後、蛇族とクル族は和した。復讐の連鎖を断つ役が、両族の血を引く少年に与えられている点に、この挿話の要がある。
図像と象徴
固有の像容は伝わっておらず、独立した礼拝像の伝統もない。図像に現れるとすれば、祭場に立って王に語りかける少年の姿である。母マナサーの像には、膝に子を抱く形のものがあり、その子は彼であるとされる。象徴となるのは、蛇族とバラモンという相容れぬ二つの出自そのものである。
系譜と関係
父は聖仙ジャラトカール、母はマナサー(別名ジャラトカール)。母方の伯父がヴァースキ、祖父母は聖仙カシュヤパとカドゥルーにあたる。したがってシェーシャやタクシャカとも血縁で結ばれる。師はチヤヴァナ。夫婦がともに同じ名をもつという設定は、祖霊を救うための条件から生じたものであり、この一族の物語が名の一致という細部から動き出していることを示す。
文化的足跡
蛇たちが救われた日は、シュラーヴァナ月白半の第五日にあたるとされ、ナーガ・パンチャミーとして祝われる。この日、インド各地で蛇に乳や花が供えられ、蛇の絵が家の壁に描かれる。実際の蛇咬みが増える雨季にあたっており、恐れと祈願が結びついた年中行事となっている。
叙事詩の枠組みという点でも、彼の役割は大きい。蛇供祭が最後まで行われていれば『マハーバーラタ』が語られる場は失われていたはずであり、祭を止めた彼は、物語が語り終えられることを保証した人物でもある。復讐を止める者が、語りを可能にするという構造になっている。