ジャターユ
ジャターユス · 禿鷹の王 · アルナの子
『ラーマーヤナ』に登場する老いた禿鷹の王。さらわれるシーターを救おうとラーヴァナに戦いを挑み、翼を切り裂かれて命を落とした。
解説
概要
ジャターユ(Jaṭāyu / जटायु)は、叙事詩『ラーマーヤナ』に登場する巨大な鳥の王である。六千年を数える老いた禿鷹で、ダンダカの森に棲む。父はスーリヤの御者アルナ、母はシュエーニーとされ、兄にサムパーティがいる。象の鼻に比肩する長さの硬い鉤爪をもつ。ラーマの友となってシーターの守護を誓い、彼女がさらわれた際には老躯を賭してラーヴァナに挑み、命を落とした。叙事詩において、義のために勝てぬ戦いへ身を投じる者の型を示す。
神話・物語
若い頃、彼は兄サムパーティとともにインドラを征服しようと天へ飛翔した。ところが太陽に近づきすぎ、その熱に力を失って地へ落ちる。このとき兄が両翼で彼を庇ったため、代わりにサムパーティが翼を焼き失った。以後ジャターユはダンダカの森に、兄はヴィンディヤ山に住むこととなる。『マハーバーラタ』は同じ出来事を、どちらが先にスーリヤの集会場へ着くかを競った結果として語り、兄の翼だけが燃えたとする。
追放されたラーマが妃シーターと弟ラクシュマナを伴ってダンダカの森に至ったとき、彼は王子の友となり、シーターを守ることを約した。このときカシュヤパによる生類創造の系譜を語って自らの出自を明かしている。
ラーマの留守を狙ってラーヴァナがシーターを略奪したとき、樹上に眠っていた彼はその叫び声で目を覚まし、羅刹王に襲いかかった。弓矢で応じるラーヴァナに対し、降り注ぐ矢をはじき返して黄金の戦車を破壊する。だが老いた身はすぐに疲れ、それを見たラーヴァナは飛び去ろうとした。追いすがった彼は背に傷を負わせ、十本の腕を食いちぎったが、腕はたちまち再生し、逆に剣で翼を切り裂かれて地に落ち、瀕死となる。
戻ったラーマは、当初この鳥がシーターを食い殺したのではないかと疑い、弓を構えた。だが彼がシーターがさらわれたことを告げると、ラーマは弓を捨てて抱き起こす。ジャターユは略奪者の名を告げぬまま王子の腕のなかで息絶え、火葬されて昇天した。名を告げられなかったことが、以後の長い探索を必要とさせる。
図像と象徴
巨大な禿鷹として表され、図像に現れるのはほぼ例外なくラーヴァナとの戦いの場面である。空を行く黄金の戦車に鳥が食らいつき、シーターがそれを見つめるという構図が定型となった。ラージャ・ラヴィ・ヴァルマの石版画(ウェルカム・コレクション蔵)はその代表例で、翼を切られる瞬間を描く。象徴となるのは切り落とされた翼であり、無力を承知で挑む姿そのものが彼の標である。
系譜と関係
父はアルナ、母はシュエーニー、兄はサムパーティ。祖母はヴィナター、叔父はガルダにあたる。ガルダの子とする異伝もある。伯母カドゥルーの子であるナーガ族とは対立の系譜に置かれるが、彼自身が蛇と争う説話はない。ラーマとは短い交わりでありながら、父子のような情で結ばれた者として描かれる。
文化的足跡
ケーララ州には、彼が息絶えた地と伝えられる巨岩がある。近年は鳥の姿を象った巨大な彫刻が置かれ、多くの参拝者と観光客を集めている。彼を主題とする寺院は数少ないが、南インドでは葬送や解脱と結びつけて語られることがある。ラーマ自身が火葬を執り行ったという一段が、身分や種を越えた弔いの例として引かれるためである。東南アジアの『ラーマーヤナ』受容においても、ジャタユ、ジャタユーなどの名で広く知られ、インドネシアやタイの舞踊劇に欠かせない場面となっている。