フェンリル
フェンリスウールヴ · フェンリス狼 · Fenrisúlfr
北欧神話の巨大な狼。トリックスター神ロキの子で、大蛇ヨルムンガンドやヘルの兄弟。神々に縛められ、ラグナロクに解き放たれてオーディンを呑み込む破滅の獣。
解説
概要
フェンリル(Fenrisúlfr、「フェンリル狼」)は、北欧神話に語られる巨大な狼である。トリックスターの神ロキと女巨人アングルボザのあいだに生まれた三兄弟の一——世界を取り巻く大蛇ヨルムンガンド、冥界の女王ヘルと並ぶ——にして、ラグナロク(神々の黄昏)に主神オーディンを呑み込む定めを負う、破滅の獣である。
登場する物語
その物語はエッダに伝わる。予言によってフェンリルが神々に大禍をもたらすと知りながら、神々はこの狼をアースガルズで育てた。だが日ごとに凄まじく育つ狼を恐れ、神々はこれを縛ろうと図る。レイジング、ドローミと名づけた頑丈な鎖を、フェンリルはいずれもたやすく引きちぎった。そこで神々は小人(ドヴェルグ)に、この世ならぬ六つのもの——猫の足音、女の髭、山の根、熊の腱、魚の息、鳥の唾——から、絹のように柔らかく、しかし断ちがたい縛めグレイプニルを鍛えさせた。
罠を疑ったフェンリルは、神の誰かが自分の口に手を入れることを条件に、この縛めを受け入れた。軍神テュールがひとり進み出て、その口に手を置く。フェンリルが縛めを破れぬと悟って暴れると、テュールはその手を失った。こうして狼は岩に繋がれ、口には剣を噛まされて顎を開かれ、その滴るよだれからは川が流れ出たという。
図像と象徴
フェンリルを描く古い図像は数少ないが、本サイトが掲げるのは17世紀アイスランドの写本(AM 738 4to)の一葉で、縛められ、口から川を溢れさせる狼の姿を伝える。飼い馴らしえぬ暴威、抑え込まれてなお解き放たれる時を待つ破壊の力——フェンリルは、「縛め」という主題そのものとともに記憶されてきた。太陽と月を追う狼スコルとハティを、その眷属とする伝えもある。
関係する神格・退治した英雄
フェンリルはロキの子であり、ヨルムンガンドと冥界の女王ヘルの兄弟である。ラグナロクにおいて縛めを解いた狼は、上顎を天に、下顎を地に届かせるほどに口を開き、オーディンを呑み込む。だが復讐は速い。オーディンの子ヴィーザルが、特別に鍛えた靴を履いた足で下顎を踏みつけ、上顎を引き裂いて——一説には剣で心臓を貫いて——父の仇を討つ。
文化的足跡
縛められた狼、そして解き放たれて世界を呑む狼という主題は、後世の想像力を強く刺激してきた。現代でもゲームやアニメ、ファンタジー作品に、フェンリルの名はしばしば強大な魔狼として登場する。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。