スコル
スコル · スコール · スケル
北欧神話で太陽を追う狼。夜ごと月を追う兄弟ハティとともに空を駆け、ラグナロクの日についに追いつき、太陽を呑み込む。
解説
概要
スコル(Skǫll)は、北欧神話で太陽を追う狼。太陽は女神ソールとして車を駆り、この狼はその背後をひたすら走る。夜のあいだ月(マーニ)を追う兄弟ハティ・フローズヴィトニスソンと対をなす。
名は「嘲り」あるいは「裏切り」と訳される。古ノルド語 skǫll は skall(吠え声、遠くまで響く音)の女性形で、skjalla・skella「吠える、罵る」に連なる。スウェーデン語 skäll(吠える・叱る)、デンマーク語 skæld、そして英語の scold も同じ語根である。追う狼の名が「吠え声」であることになる。
北欧神話の狼のなかで、この獣の役目ははっきりしている。まだ何も起きていない。追いついていない。日々の空の運行そのものが、追跡が続いているという状態である。
登場する物語
『ギュルヴィたぶらかし』が、この狼を紹介する。
ソールが太陽の車を与えられて空を渡るようになったとき、二頭の狼が追いはじめた。語り手は言う——彼女は速く走る。追う者はすぐ後ろにいて、彼女には逃げるほかない、と。二頭のうち、彼女が恐れているのがスコルである。世界の終わりに、この狼が彼女に追いつく。もう一頭ハティはその前を走り、月を追っている。
『グリームニルの言葉』にも同じ二頭が現れる。ここではスコルが太陽を、ハティが月を追い、両者が神々の輝きを奪おうとしている。
母は名を伝えない女巨人、父はフェンリルとするのが通説である。ハティの父称フローズヴィトニスソンのフローズヴィトニル(名高き狼)はフェンリルの別名と解されるためだが、断定はできない。
ラグナロクの日、追跡は終わる。狼は太陽を呑み込み、星々は空から落ち、大地は震える。日常的な空の運行と、世界の終わりが、同じ一つの動作の完了として語られている。毎日繰り返される追いかけっこが、いつか終わるという設定そのものが不吉である。
図像と象徴
異教期の造形は知られていない。図像が現れるのは近代の挿絵本からで、ジョン・チャールズ・ドルマンが1909年に描いた《太陽と月を追う狼たち》が定型を作った。太陽の車と月の車、その背後を駆ける二頭の狼が一枚に収まっている。デンマークのルイス・モーも1929年に同じ主題を扱った。
象徴として繰り返し論じられてきたのが、幻日との関係である。北欧の空には、太陽の左右に光の点が並んで見える大気光学現象がしばしば起こる。スウェーデン語ではこれを solvarg、ノルウェー語では solulv——いずれも「太陽の狼」と呼ぶ。ルドルフ・ジメクは、スコルとハティの伝承がこの現象の説明であった可能性を指摘した。太陽に付き従う光の点を、追いすがる獣と見た解釈である。
同じジメクは、スコルとハティとフェンリルが本来は同一の狼で、後に三頭に分かれたのではないかとも述べている。北欧神話の狼は、名の数ほど個体がいないのかもしれない。
関わる神格・伝承
父はフェンリル(通説)、兄弟はハティ。追う相手は太陽の女神ソール、ハティの相手は月の男神マーニ。ソールとマーニは兄妹で、父が太陽と月にちなんで名づけたことを神々が咎め、車を駆る役目に就かせたと『ギュルヴィたぶらかし』は語る。
天体が獣に追われる、あるいは呑まれるという発想は各地にある。インドのラーフは太陽と月を呑んで日月蝕を起こし、切られた首だけになっているため、呑んだ天体はすぐに下から出てくる。中国では天狗が日を食むと語られた。北欧のスコルが異なるのは、日蝕を説明していない点である。追いついた瞬間は一度きりであり、繰り返されない。
文化的足跡
現代の創作では、スコルとハティは対の狼として、しばしば太陽と月の象徴に配される。ゲームや小説での扱いは、おおむね「終末に太陽を呑む狼」という一行の設定に沿う。
原典が語るのはむしろ、追いつかない時間の長さのほうである。世界が続いているとは、狼がまだ追いついていないということにほかならない。北欧神話は、平穏な状態を「まだ何も起きていない」という形で定義する。日が昇り沈むという最も当たり前の光景が、この体系では終わりへの秒読みとして描かれている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。