ディオメーデース
ディオメデス · ディオメーデス · Diomedes
アルゴスの王でトロイア戦争のギリシア方の勇将。アテーナーの加護を受け、神々に傷を負わせた唯一の人間である。
解説
概要
ディオメーデース(Διομήδης / Diomēdēs)は、テューデウスの子で、アルゴスとティーリュンスを治めた王である。エピゴノイの一人としてテーバイを落とし、トロイア戦争ではギリシア方の勇将として戦った。
『イーリアス』において彼は、アキレウスが戦線を離れているあいだ戦場を支えるだけでなく、アプロディーテーとアレースの二柱に傷を負わせる。神に傷を負わせた人間はほかにいない。神と人の距離が最も縮まる人物である。
神話・物語
父テューデウスはテーバイ攻めの七将の一人として戦死し、そのとき彼は四歳であった。十年後、七将の子たちがふたたびテーバイを攻めたとき、十五歳の彼が最も武勇に優れていたと伝えられる。帰還後、アドラーストスの孫娘アイギアレイアを妻としてアルゴス王となった。父の故郷カリュドーンでは、祖父オイネウスの王位を奪った者たちを討って王権を回復させている。
トロイアへは八十隻を率いて参加した。『イーリアス』第5巻は彼の武勇に丸ごと当てられる。アテーナーの加護のもと、彼はアイネイアースを追い、救い出そうとしたその母アプロディーテーの手に傷を負わせた。さらにハーデースの兜で姿を隠した女神の助力を得て、アレースを刺して敗退させる。第6巻ではリュキアの将グラウコス——ベレロポーンの孫——と戦おうとして、互いの祖父が客人の縁で結ばれていたことを知り、武具を交換して別れる。戦場で戦わずに済む唯一の場面である。
第10巻ではオデュッセウスと夜襲に出て、到着したばかりのトラーキア王レーソスと兵十二人を眠っているところで殺し、白馬を奪った。二人はまた、トロイアを守る神像パラディオンを市内から盗み出している。これも落城の条件の一つであった。
戦後の帰路も語られる。ナウプリオスの呪いにより、妻アイギアレイアは他の男と通じてアルゴスへの帰還を拒んだ。アプロディーテーが手傷の恨みからこれを仕向けたとする版もある。国を追われた彼はイタリアへ渡り、ブリンディシウムなどの都市を建てたと伝えられる。
図像と象徴
本ページの主画像は、後2〜3世紀のローマの大理石像(ルーヴル美術館 Ma890)で、前5世紀のギリシア原作の模刻とされる。盗み出したパラディオンを抱える姿で、像そのものは失われている。神像を盗む英雄という主題が、ヘレニズム・ローマ期を通じて彫刻の型として残ったことがわかる。
陶画では、パラディオン奪取とレーソスの夜襲が繰り返し描かれた。いずれも正面からの戦いではない。『イーリアス』が彼を武勇の人として描くのに対し、図像が選んだのは奇襲と窃盗の場面であった。
系譜と関係
父テューデウス、母はアドラーストスの娘デーイピュレー。父方はアイトーリア人、母方はアルゴス人という二重の出自を持つ。妻はアイギアレイア。
系譜のうえではカリュドーン王オイネウスの孫にあたり、カリュドーンの猪狩りのメレアグロスは父の異母兄である。
文化的足跡
南イタリアとアドリア海沿岸には彼の名を負う祭祀が広く分布した。アプリアでは神として祀られ、ディオメーデース諸島(現トレミティ諸島)には彼の墓があり、従者たちが鳥に変えられて島に住んだと伝えられる。ギリシアの英雄が西方の植民世界で神格化された代表例である。
なお、ヘーラクレースの功業に登場するトラーキア王ディオメーデース——人食い馬の主——は同名の別人である。