テューデウス
テュデウス · Tydeus
ギリシア神話のカリュドーンの亡命者で、テーバイ攻めの七将の一人。瀕死の敵の頭蓋を割って脳をすすり、アテーナーの与えるはずだった不死を失った。
解説
概要
テューデウス(Τυδεύς / Tydeus)は、カリュドーン王オイネウスの子で、テーバイ攻めの七将の一人である。トロイア戦争の英雄ディオメーデースの父にあたる。
小柄でありながら誰よりも荒く戦う者として語られ、その荒さが最後に自分自身を滅ぼす。ギリシアの英雄譚のなかでも、勇猛さと獣性の境目を正面から扱った稀な人物である。
神話・物語
人を殺して故国を追われた。殺した相手は伯父アルカトオスとも、王位を狙ったメーラスの息子たちとも、自分の兄弟だともいう。アルゴスへ逃れ、王宮で同じく亡命者のポリュネイケースと争っていたところをアドラーストスに引き分けられ、娘デーイピュレーを与えられた。生まれた子がディオメーデースである。
遠征の召集では、彼が将たちを説いて回った。参戦を拒む予言者アムピアラーオスを引き出すため、その妻エリピューレーをハルモニアーの首飾りで買収するようポリュネイケースに進言したのは彼だとする伝えもある。これがのちに命取りになる。
ネメアーの競技祭では拳闘に勝ち、テーバイへの使者に立ったときはテーバイ人と次々に一騎討ちして全勝し、帰路に五十人の伏兵を受けてこれも打ち破った。
戦いではクレーニダイ門を攻め、敵将メラニッポスに腹を突かれて倒れる。瀕死の彼を惜しんだアテーナーが、ゼウスから得た霊薬で不死にしようと降りてきた。それを見たアムピアラーオスは——参戦を強いられた恨みから——メラニッポスの首を切り取って投げつける。テューデウスはその頭蓋を割り、脳をすすった。嫌悪した女神は霊薬を与えずに去り、彼は死んだ。
不死をあと一歩で逃した英雄という結末は、勇猛さがそのまま獣性に転じる瞬間を女神に目撃させるという形で語られている。女神はのちに息子ディオメーデースを庇護した。
図像と象徴
図像は多くない。本ページの主画像は前6世紀のコリントス式アンフォラ(ルーヴル美術館 E640)で、テューデウスがイスメーネーを討つ場面を描く。オイディプースの娘イスメーネーが恋人と臥所にいるところをテューデウスが襲うというこの筋は、古い層に属し、悲劇が伝える物語には現れない。図像だけが伝える異伝の例である。
メラニッポスの頭蓋をすする場面は、エトルリアの青銅鏡やアプリアの壺絵に見える。ギリシア本土の陶画がこの場面をほとんど避けたことと対照的である。
系譜と関係
父オイネウス、母ペリボイア。オイネウスと娘ゴルゲーの子とする異伝もある。カリュドーンの猪狩りのメレアグロスは異母兄。
妻はアドラーストスの娘デーイピュレー、子はディオメーデース。ディオメーデースはエピゴノイの一人としてテーバイを落とし、のちにアドラーストスの跡を継いでアルゴス王となった。父が果たせなかった遠征を子が完遂している。
文化的足跡
『イーリアス』第4巻と第5巻は、ディオメーデースに向かって繰り返し「父に劣らぬように」と語りかける。息子の武勲がつねに父との比較で測られる構成は、ホメーロスがテーバイ伝説を既知の前提として扱っていたことを示している。