マイア
マイエー · マイヤ · アトランティデス
プレイアデスの最年長で、ゼウスとのあいだにヘルメースをもうけた。名は「母」「産婆」を意味する。ローマの大地の女神マイアと同一視され、五月の名祖となった。
解説
概要
マイア(Μαῖα、「母」「乳母」「産婆」)は、ギリシア神話のプレイアデスの一人であり、ゼウスとのあいだにヘルメースを産んだ。
名はギリシア語のマイア(μαῖα、年長の女性への敬称。μήτηρ「母」に連なり、「産婆」をも意味する)に由来する。
ローマの大地の女神マイア——メルクリウスの母——と同一視された。
神話・物語
アトラースとオーケアニスのプレーイオネーの娘であり、七人のプレイアデスの長姉にあたる。アルカディアのキュッレーネー山で生まれ、山のニュンペー(オレイアス)と呼ばれることもある。ケオスのシモーニデースは「山のマイア、麗しい黒い瞳の」と歌った。アトラースの娘であることから、アトランティデスとも呼ばれる。
『ホメーロス風讃歌』のヘルメース讃歌によれば、ゼウスは妻ヘーラーに知られぬよう、深夜にキュッレーネーの洞窟でマイアと交わった。神々との交わりを避けて暮らしていた女である。生まれた子を布にくるんで寝かせたが、異様な速さで育つ嬰児は這い出してテッサリアへ向かい、初日の夜のうちに異母兄アポローンの牛を盗み、亀の甲羅から竪琴を作った。
アポローンがヘルメースを盗人だと訴えても、マイアは信じようとしない。ゼウスはアポローンの側に立った。最後にアポローンは牛と竪琴を交換し、竪琴はこの神の標の一つになる。
姉妹たちと水浴していたとき、ヘルメースが忍び込んで衣をすべて盗んだという話も伝わる。水から上がったニュンペーたちが裸のまま途方に暮れるのを見て笑い、そののち衣を返したという。
『ホメーロス風讃歌』ではマイア自身がヘルメースの養育者だが、ソポクレースの失われたサテュロス劇『追跡者たち』では、彼女は嬰児をキュッレーネー(土地の山の女神)に託して育てさせる。そのためアポローンとサテュロスたちが牛を探して問い詰めるのは、この女神のほうである。
養育者としての相はもう一つある。カリストーとゼウスの子アルカスを育てたのもマイアである。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ニコクセノスの画家によるアッティカの壺絵である(ミュンヘン国立古代美術博物館蔵)。ヘルメースとマイアを描く。
単独で表されることは少なく、子ヘルメースとともに、あるいはプレイアデスの一人として描かれる。
名が意味するのは母であり乳母であり産婆である。この女神が担うのは産むことと育てることであって、行為らしい行為はない。それでも名が残ったのは、ヘルメースの母だからである。「マイアの子」(マイアデス)はヘルメースの定型の呼び名になった。
系譜と関係
父はアトラース、母はプレーイオネー。姉妹は他の六人のプレイアデス。子はヘルメース。
ローマのマイアとの同一視は、名の一致による。ローマのマイアはウゥルカーヌスと結びつく古い大地の女神であり、ギリシアのプレイアスとは本来別の神格である。五月(May/Maius)の名がこの女神に由来するという説は古代から行われていたが、確証はない。
文化的足跡
プレイアデス星団——日本では「すばる」——の各星には、七姉妹の名が与えられている。マイアもその一つで、20 Tauri がこれにあたる。
五月の名の由来としてこの女神を挙げる説は、オウィディウス『祭暦』に既に見える。ローマ人自身が確定できなかった語源であり、今日も決着していない。それでも英語 May、フランス語 mai の背後にこの名が想定され続けているという事実自体が、神名が暦にどう食い込んでいるかを示している。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。