イーアシオーン
イアシオン · イーアソス · エーエティオーン
サモトラケー島の秘儀の創始者。カドモスとハルモニアーの婚礼の席でデーメーテールに誘われ、三度耕された畑の畝で交わって富の神プルートスをもうけた。ゼウスの雷霆に撃たれた。
解説
概要
イーアシオーン(Ἰασίων)は、ギリシア神話の人物である。イーアソス、エーエティオーンとも呼ばれる。サモトラケー島の秘儀の創始者とされる。
神話・物語
神話記述者アポロドーロスによれば、プレイアデスのエーレクトラーとゼウスの子であり、ダルダノスの兄弟である。ヘッラニコスとディオドーロスも同じ系譜を伝え、ハルモニアーを姉妹に加える。イタリアの系譜の版では、イーアシオーンとダルダノスはともにエーレクトラーの子でイタリアに生まれ、イーアシオーンの父はコリュトス、ダルダノスの父はゼウスとされる。
デーメーテールとのあいだに富の神プルートスをもうけた。ヒュギーヌス『天文誌』によればピロメーロスの父でもあり、ディオドーロスによればキュベレーとのあいだにコリュバースをもうけた。
カドモスとハルモニアーの婚礼において、デーメーテールはイーアシオーンを他の参会者から誘い出した。二人は、三度耕された畑の畝にデーメーテールが身を横たえて交わったという。
これを知ったゼウスは、嫉妬からイーアシオーンを雷霆で撃った。ヘーシオドス『神統記』と『オデュッセイア』第5巻の双方が、この結末を伝える。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
象徴の中心は、耕された畑である。穀物の女神が畝の上で人間と交わり、その子が富の神プルートスである——農耕の恵みが、文字どおり大地との交わりから生じるという構図である。ホメーロスは「三度耕された休閑地で」と記し、耕作の回数まで語っている。
雷霆に撃たれるという結末は、女神に愛された人間の型に属する。アンキーセースやセメレーと同じである。
関わる神格・伝承
母はエーレクトラー、父はゼウス(あるいはコリュトス)。兄弟はダルダノス。子はプルートス。
サモトラケーの秘儀の創始者とされることが、この人物の宗教上の位置を決めている。デーメーテールとの結びつきは、エレウシースの秘儀におけるトリプトレモスの位置と対をなす。いずれも女神から農耕の恵みを受け、秘儀の起源に置かれる。
文化的足跡
『オデュッセイア』第5巻で、カリュプソーはこの物語をゼウスへの抗議として引く。女神が人間を愛すると神々が嫉妬する——エーオースとオーリーオーン、デーメーテールとイーアシオーン——と並べ、自分とオデュッセウスの場合も同じだと訴える。
日本語圏でこの名が挙げられることはまずない。しかし富の神プルートスの父であり、畑での交わりという農耕神話の核心を担う人物である。