アルゲース
アルゲス · アクモニデース · Arges
ゼウスの雷霆を鍛えたキュクロープス三兄弟の一人。名は「輝き」を意味する。アスクレーピオスを撃った雷霆を作った罪で、アポローンに射殺された。
解説
概要
アルゲース(Ἄργης、「輝く者」「閃く者」)は、ギリシア神話のキュクロープスの一人である。ウーラノスとガイアの子で、ブロンテース(「雷鳴」)、ステロペース(「電光」)とともに三兄弟をなす。
名はいずれも雷を構成する要素を指す。轟き、閃光、そして輝き——三兄弟の名を合わせると、雷というひとつの現象が三つに分解されていることが分かる。
神話・物語
ヘーシオドス『神統記』(前700年頃)が伝えるところでは、この三兄弟は額の中央に一つだけ目を持ち、ティーターン神族およびヘカトンケイル(百手巨人)の兄弟にあたる。心は強情で、あらゆる業において力と技を備えていたという。
父ウーラノスは、生まれてきた子らを憎み、大地の奥へ隠した。のちにクロノスがティーターンたちを解放したときも、キュクロープスとヘカトンケイルは縛められたままであった。ゼウスがこれを解き放つ。
礼として三兄弟は、ゼウスに雷霆(ケラウノス)を、ポセイドーンに三叉の矛を、ハーデースに姿を隠す兜を与えた。ティーターノマキアーの帰趨を決めたのは、この三つの武器である。
終わりも三兄弟に共通する。アポローンの子アスクレーピオスが死者を蘇らせたためにゼウスの雷霆で撃たれると、アポローンは報復として雷霆を作った者たちを射殺した。武器を鍛えた罪で、その武器の使用者ではなく製作者が罰されるという構図である。
図像と象徴
三兄弟を個別に描き分けた古代の作例は知られておらず、本サイトも主画像を掲げない。ギリシア・ローマの美術がキュクロープスを描くとき、それは常に集団としてであり、名を伴わない。
象徴として押さえておきたいのは、この三兄弟が「一つの現象を三つに分ける」という発想の産物だという点である。雷が落ちるとき、人は音と光と輝きを別々に知覚する。その三つに名を与え、兄弟として並べたものが、この神格群にほかならない。
一つ目という造形の由来については、鍛冶の作業に関わるとする解釈がある。鍛冶職人が飛び散る火花から片目を守るために眼帯をしたことに由来する、という読みである。ただし古代の証言はなく、近代の推測にとどまる。
関わる神格・伝承
兄弟はブロンテースとステロペース。両親はウーラノスとガイア。
キュクロープスと呼ばれる存在は三種に区別される。ヘーシオドスのこの三兄弟、『オデュッセイア』に現れる粗野な牧人の一群(ポリュペーモスを含む)、そしてミュケーナイとティーリュンスのキュクロープス式城壁を築いたとされる者たちである。三者は本来別の系統であり、混同すべきではない。
前3世紀の詩人カッリマコスは、ヘーシオドスのキュクロープスを鍛冶神ヘーパイストスの助手とした。ウェルギリウス『アエネーイス』も同様であり、そこではヘーシオドス系とホメーロス系のキュクロープスが同一視されているように見える。
文化的足跡
日本語圏でキュクロープスといえば、ポリュペーモスに代表される一つ目の巨人という像が広く知られている。ゼウスの雷霆を鍛えた三兄弟のほうは、名を挙げられることが少ない。
しかしギリシアの神話体系において、この三兄弟が果たす役割は決定的である。オリュンポスの神々がティーターンに勝ったのは、彼らが鍛えた武器によってである。世界の支配権が、職人の手仕事によって決まったことになる。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。