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ヒッポカムポス
PLATE — ἹΠΠΌΚΑΜΠΟΣ
HELLAS · ギリシア神話
ἹΠΠΌΚΑΜΠΟΣ

ヒッポカムポス

ヒッポカンポス · ヒッポカンプ · 海馬

Ad Meskens CC BY-SA 3.0

上半身が馬、下半身が魚という海獣。ポセイドーンの車を牽き、海の神々を乗せて泳ぐ姿が古代美術に繰り返し描かれた。

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解説

概要

ヒッポカムポス(ἱππόκαμπος / hippocampus)は、上半身が馬、下半身が魚または蛇の尾となった海獣である。名はヒッポス(馬)とカムポス(海の怪物)の合成語で、ヒッポカンポスとも表記される。ポセイドーンの車を牽き、あるいは海の神々を乗せて泳ぐ姿で古代美術に繰り返し現れる。

物語の主人公になることはなく、語られるより先に描かれた存在である。ギリシアに限らず、エトルリア、フェニキア、ローマ、さらにピクト人の美術にも見え、地中海世界を越えて広がった図像でもある。

登場する物語

ホメーロス『イーリアス』のポセイドーンは、青銅の蹄を持つ馬に車を牽かせて海面を渡る。ロドスのアポローニオスもまた、海から現れてリビュアの砂を駆けるポセイドーンの馬を描いた。ここで想定されているのは、あくまで馬である。ところがガイウス・ウァレリウス・フラックス『アルゴナウティカ』は「二つに割れた蹄の馬」と書き、ヘレニズム期以降のローマの図像では、神が牽かせるのはヒッポカムポイになる。海の神の乗り物が、陸の馬から海の獣へ移っていく過程がここに見てとれる。

淡水と海水の両方に現れることも、この獣の性格を示す。古代ギリシアの水循環の理解では、雨が地下水を涵養するとは考えられておらず、海の水が巨大な洞窟と水脈を通って陸へ流れ込み、泉となって新たに湧き出すと想像されていた。海と泉は地下でつながっていたのである。アカイアの海岸平野ヘリケーの神殿がボイオーティアのヘリコーン山の聖なる泉にちなむ「ヘリコーンのポセイドーン」に捧げられていたのも、その理解に立つ。地震で街が海に沈んだのちも、神殿の青銅のポセイドーン像はヒッポカムポイを従えたまま漁師の網を引っ掛け続けたと伝えられる。同じ理由から、ローマの浴場のモザイクにこの獣を描くことは自然な選択とされた。イングランドのバース(アクアエ・スーリス)の作例がその例である。

パウサニアースは2世紀に、コリントスのポセイドーン神殿の奉納群を記述している。ヘーローデース・アッティコスが献じた四頭の馬は蹄だけが象牙で他は金鍍金、そのかたわらに腰から下が象牙の黄金のトリートーンが二体。車上にはアムピトリーテーとポセイドーンが立ち、イルカに乗った少年パライモーンが添えられていた。この四頭の馬もヒッポカムポイであったと考えられている。

図像と象徴

図像の初出は東方に近い。前4世紀頃にテュロスで打たれた貨幣には、守護神メルカルトが有翼のヒッポカムポスに乗り、イルカを従える図が刻まれる。ビュブロスの同時代の貨幣では、ガレー船の下を潜るヒッポカムポスが表された。小アジアのリュディア王国の埋蔵品からは、前6世紀の黄金製のヒッポカムポスが出土している。

エトルリアでは、東方化期の初めからこの獣が現れ、以後も墓室の壁画と浮彫の主題であり続けた。しばしば翼を与えられる。キャサリン・シェパードは、そこに死者が海を渡って他界へ赴くという信仰を読んだ。ただしこれは20世紀の解釈であって、エトルリア側の文献が裏づけるものではない。

ギリシア・ローマ美術では、海のティアソス——トリートーンたち、ネーレーイスたち、海獣からなる海の行列——の一員として描かれるのが定型である。本項に掲げたのは、チュニジアのスースから出土した3世紀半ばのローマ期モザイク《ネプトゥーヌスの凱旋》で、三叉戟を執った神が二頭のヒッポカムポスに牽かせた車の上に立つ。北アフリカの都市で床を飾るのにふさわしい図柄として、この構図は各地で繰り返された。

魚の尾を持つ獣は他にもいる。山羊の前半身に魚の尾を備えたアイギカムポス(山羊魚。やぎ座に対応する)、獅子のレオカムポス、牡牛のタウロカムポス、豹のパルダロカムポス。ギリシア美術では稀で、むしろエトルリアの好みであった。上半身を人に置き換えたものがイクテュオケンタウロスで、こちらは前2世紀以降に現れる。

関係する神格・退治した英雄

ポセイドーンおよびネプトゥーヌスの乗り物。アムピトリーテー、トリートーン、ネーレーイデスら海の神々とともに描かれる。退治される怪物ではなく、神に従う獣である点で、海獣ケートスのような海の脅威とは位置づけが正反対にあたる。水神・海神のファセットにおいて、この獣は海の恐怖ではなく海の支配を視覚化する道具として働いた。

文化的足跡

ルネサンス以降、紋章学の図案として広く用いられた。海に関わる人物や土地の紋章に多い。ただし現在の紋章記述では、hippocamp や hippocampus の語は実在のタツノオトシゴを指し、神話の獣のほうを sea-horse と呼ぶ——語の意味が入れ替わっている。紋章のシーホースは馬の頭と首、魚の尾を持ち、前肢が水掻きのある足に置き換えられる。ワイト島とニューカッスル・アポン・タインの紋章、ニューカッスル・ユナイテッドの紋章に見られるのはこの型である。1732年のトレヴィの泉、1933年以来のエールフランスの有翼ヒッポカムポスの社章も、この系譜に連なる。

ラテン語名 hippocampus はタツノオトシゴ属の学名に転用され、さらに脳の一部位である海馬の名となった。後者はタツノオトシゴに形が似ることによる孫命名で、神話から二段階を経た名づけである。2019年には、2013年に発見された海王星の小衛星にヒッポカンプの名が与えられた。

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領分・別名

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資料

Wikidata
Q816795 — 骨格データの出典
Commons
Hippocampus (mythology) — 図像カテゴリ