アハリヤー
ガウタマの妻 · シャターナンダの母 · パンチャカニヤーの一
聖仙ガウタマの妻。インドラに欺かれて夫の呪いを受け、長く身を失ったのち、ラーマによって解かれたと語られている女性。
解説
概要
アハリヤー(Ahalyā / अहल्या)は、聖仙ガウタマの妻であり、シャターナンダの母である。ブラフマーが造った最も美しい女とされる。インドラに欺かれた(あるいは知りつつ応じた)ことによって夫の呪いを受け、長くその身を失ったのち、ラーマによって解かれた。名を唱えれば罪が消えるとされるパンチャカニヤー(五人の乙女)の一人に数えられる。
神話・物語
『ラーマーヤナ』が伝えるところでは、彼女に懸想したインドラが、夜明け前に鶏の声を真似て夫を沐浴に出し、夫の姿を装って庵に入った。彼女は相手がインドラであると知りながらその誘いを受けたとされる。事が済んだのち、夫の怒りを恐れて連れ去ってほしいと願ったが、インドラは足早に立ち去ろうとする。外にはすでに怒りに燃えるガウタマが立っていた。
ガウタマはインドラを呪って睾丸を奪い、全身に千の女性器を刻んだ。妻に対しては、誰の眼にも見えぬ身とし、灰を寝床とし、風を糧として数千年を過ごすことを課す。ただし、ダシャラタ王の王子が訪れたときに解かれるという条件が添えられた。のちにヴィシュヴァーミトラに導かれてラーマとラクシュマナが庵を訪れると、呪いは解かれ、彼女は三人をもてなした。天から花が降り、神々が彼女の信を讃えたという。ヒマーラヤに籠もっていたガウタマも戻り、二人は和解した。インドラのほうは他の神々から羊の睾丸を与えられ、千の女性器はティローッタマーとの出会いによって千の眼に変わった。
伝本による差は大きい。彼女が相手をインドラと知りつつ応じたとする版と、まったく欺かれた被害者とする版が並存し、呪いの内容も石に変えられるとするもの、姿を消されるとするものに分かれる。『マハーバーラタ』では、傲慢な神々の王ナフシャがインドラの妃シャチーを奪おうとする際、自らの行為を正当化する先例としてこの一件を引き合いに出す。『マールカンデーヤ・プラーナ』は、これをインドラが犯した三つの罪の一つに数えている。
図像と象徴
固有の像容は伝わっておらず、独立した礼拝像の伝統もない。図像に現れるとすれば、ラーマの足が触れて石が女の姿に戻る解呪の場面である。象徴となるのは石であり、罰として与えられた姿がそのまま彼女を語る標となっている。
系譜と関係
ブラフマーが造り、夫として選ばれたのがガウタマであった。子はシャターナンダで、ミティラー王ジャナカの家門祭司を務め、シーターの婚礼の場に立ち会う。パンチャカニヤーの列においては、ドラウパディー、クンティー、ターラー、マンドーダリーと並べられる。
文化的足跡
彼女の説話は、近現代のインドにおいて最も多く読み直されてきたものの一つである。同意の有無、罰が誰に下されるべきか、そして解呪が救済なのか赦免なのかをめぐって議論が続いてきた。原典の複数の伝本がこれらの点で一致していないこと自体が、議論の出発点である。
規範から外れた境遇にありながら讃えられるというパンチャカニヤーの構成のなかでも、彼女はとりわけ問題を提起する位置に置かれている。ラビンドラナート・タゴールの詩をはじめ、彼女を主題とする近代文学は数多く、映画や演劇にも繰り返し取り上げられてきた。