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アケローン
PLATE — ἈΧΈΡΩΝ
HELLAS · ギリシア神話
ἈΧΈΡΩΝ

アケローン

アケロン · アケローン川 · アケルーシオス

Zde (2000) CC BY-SA 4.0

冥界の入口をなす「嘆きの河」。カローンが死者をこの流れの向こうへ渡す。ギリシア北西部に実在する同名の河がその原型とされる。

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解説

概要

アケローン(Ἀχέρων / Acheron)は、冥界を流れる河であり、その河が神のかたちをとった存在でもある。「嘆きの河」と呼ばれ、カローンが死者の魂をこの流れの向こうへ渡す。冥界の入口をなす河である。

この河には実体がある。ギリシア北西部イーピロス地方を流れるアケローン川がそれで、全長およそ五十二キロ、イオニア海へ注ぐ。神話の河が地上の河の名を借りたのか、地上の河が神話を生んだのか——ステュクスと同じ問いが、ここにもある。

神話・物語

語源は定まらない。「苦しみ」を意味するアコスに由来するとして「嘆きの河」と解するのが通説だが、「響く」「音を立てる」を意味する語根に遡らせ、水が音を立てて流れる河と解する説もある。

境界の河としての位置づけは、資料によって揺れる。パウサニアース、そしてダンテ『神曲』地獄篇に至るまで、多くの記述はアケローンを冥界の入口とし、カローンをこの河に置く。ピンダロス、アイスキュロス、エウリーピデース、プラトン、カリマコスも同様である。ところがローマの詩人たちは、同じ役割をステュクスに与えた。プロペルティウス、オウィディウス、スタティウスがそうで、ウェルギリウス『アエネーイス』の冥界描写でカローンが両方の河に結びつけられていることが、その背景にあるとみられる。日本語の資料で渡し守の河をステュクスとするものが多いのは、この系統を経ているためである。

河どうしの上下関係も一様でない。ホメーロスの詩篇はアケローンを冥界の河とし、コーキュートスプレゲトーンがこれに注ぐとする。逆にウェルギリウスは、アケローンをタルタロスの主流とし、ステュクスとコーキュートスがそこから発するとした。

プラトン『パイドン』の記述は特異である。アケローンを、オーケアノスに次ぐ世界で二番目に大きな河とし、人の住まぬ地の下をオーケアノスとは逆向きに流れると述べる。地下水系の理論として提示されているのであって、詩の比喩ではない。

罰の場ではなく浄めの場とする理解もあった。ビザンツ期の辞書『スーダ』は、この河を「罰する場所ではなく癒す場所であり、人の罪を洗い清め祓う」と説明する。渡ることが浄化であるという観念が、ここには残っている。

図像と象徴

神としてのアケローンを名指した古代の作例は知られていない。冥界の河は、渡し守カローンと小舟によって示されるのが常であり、河そのものが人格をもって描かれることはなかった。

本項に掲げたのは、アケローン河畔のエピュラにあるネクロマンテイオン——死者を呼び出す神託所——の遺構である。迷宮状の通路の先に、ハーデースの神殿と推定される主室が置かれている。参詣者は暗闇のなかを進み、儀礼を経て死者の霊に会うとされた。神話の河のほとりに、実際にそのための施設が営まれていたことを示す遺跡である。

もっとも、この遺構の性格については議論がある。発掘者ソティリオス・ダカリスは神託所と解したが、近年は要塞化された農場の一種とみる説も提出されており、確定していない。

近隣にはアケルーシア湖があり、アケローンはここへ注ぐと考えられた。イタリアへ植民したギリシア人はこの湖をアウェルヌス湖と同一視し、そこを冥界の入口とした。もう一つの支流は小アジアのアケルーシア岬(現在のトルコのエレイリ)で地表に湧き出るとされ、アポローニオスによればアルゴナウタイの一行がこれを目にしている。神話の地理が、ギリシア人の移動とともに各地へ写し取られていった過程が追える。

系譜と関係

後代の伝えでは、ヘーリオスガイア(あるいはデーメーテール)の子とされる。ゼウスとの戦いの最中にティーターンたちへ水を飲ませたため、罰として冥界の河に変えられたのだという。河になったのは罰の結果という筋であり、ステュクスがゼウスに味方して誓約の神となったのとちょうど反対である。

冥界のニュンペーであるオルプネー、あるいはゴルギューラとのあいだにアスカラポスをもうけた。この息子がペルセポネーの柘榴を目撃して証言したことで、季節の循環が定まる。

なお、アケローンの語はしばしば冥界そのものを指す提喩として用いられた。

文化的足跡

ウェルギリウス『アエネーイス』第7巻でユーノーが発する一句——「もし天上の神々を動かせぬなら、私は冥界を動かそう」(flectere si nequeo superos, Acheronta movebo)——は、この河の名を含む最も名高い引用である。ジークムント・フロイトは『夢判断』の題辞にこの一句を掲げた。意識の下に横たわる心の冥界を動かす、という含意においてである。

ダンテ『神曲』では、アケローンが地獄の境界をなす。生前どちらつかずだった者たちは、この河を渡ることさえ許されず、岸に留め置かれる。マーロウ『フォースタス博士』、シェイクスピア『マクベス』にも名が現れる。南極のアケロン湖、火星のオリュンポス山北方の地溝アケロン・フォッサエにも、この河の名が与えられた。

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領分・別名

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資料

Wikidata
Q191087 — 骨格データの出典
Commons
Acheron — 図像カテゴリ