アスカラポス
アスカラポス · Askalaphos · Ascalaphus
冥界の河神アケローンの子。ペルセポネーが柘榴を食べたと証言し、その罰にミミズクへ変えられた。
解説
概要
アスカラポス(Ἀσκάλαφος / Ascalaphus)は、冥界の河神アケローンの子である。母は冥界のニュンペーであるオルプネー、ゴルギューラ、あるいはステュクスとされる。
一度の証言によって、季節の循環が定まった。この人物の役はそれに尽きる。
神話・物語
ハーデースにさらわれたペルセポネーは、冥界の食物を口にしなければ地上へ帰れるはずであった。ところが彼女は柘榴の実を食べる。それを目撃し、証言したのがアスカラポスである。証言によって、ペルセポネーは一年の三分の一(あるいは半分)を冥界で過ごさねばならなくなった。四季の循環が生じたのは、この一言によることになる。
罰は重い。怒ったデーメーテールは、彼の上に大岩を置いた。のちにヘーラクレースが冥界へ下った際、この岩をどけて助け出す。しかしデーメーテールは今度は彼を不吉な鳥、ミミズクに変えた。オウィディウス『変身物語』の版では、変身させたのはペルセポネー自身であり、冥界の泉の水を振りかけたことによるとされる。
見たままを語った者が罰せられる——この筋には注意がいる。彼は嘘をついたのではなく、真実を証言した。それでも、告げ口をした者として扱われる。沈黙が徳とされる文脈がここにはあり、密儀宗教における秘密の保持と結びつけて読まれることもある。
なお、アレースとアステュオケーの子で、オルコメノスを支配しトロイア戦争で戦った同名の人物がいる。アルゴナウタイの一人に数えられることもあり、こちらは別人である。
関係する神格・退治した英雄
父アケローン、母はオルプネー、ゴルギューラ、あるいはステュクス。証言の相手はペルセポネーとデーメーテール、岩から救い出したのはヘーラクレースである。
図像と象徴
アスカラポスを名指した古代の作例は知られていない。ペルセポネーの帰還を描く図像は数多いが、この証人が画面に加わることはなかった。物語の要点が「見て、言った」という一点にあるため、絵にする手がかりを欠いたのだろう。本項では主画像を置いていない。
文化的足跡
変えられたミミズクは、ギリシア語でアスカラポスと呼ばれる鳥だとされる。今日ではコノハズクの類に比定されることが多い。夜に鳴く鳥を不吉とする観念が、この変身譚の背景にある。鳥の名が先にあり、それを説明するために人物が構想されたとみるほうが、順序としては自然だろう。
昆虫のツノトンボ科の学名アスカラフス(Ascalaphidae)にも、この名が用いられている。