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ゾリャー
PLATE — ЗОРЯ
SLAVI · スラヴ神話
ЗОРЯ

ゾリャー

ゾーリャ · ザリャー · ゾリャ

Зарубин Л. А.(ノヴゴロド・フルドフ詩篇 13世紀末の図版) PUBLIC DOMAIN

スラヴの民間伝承に現れる曙の乙女。太陽の宮殿の門を開き閉じ、その白馬を守るとされる。朝と夕の二姉妹、のちに三姉妹として語られるが、中世の史料にその名は一度も現れない。

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解説

概要

ゾリャー(Zorya)は、スラヴ語圏の民間伝承に現れる曙の擬人化である。ロシア語 заря/зоря、ポーランド語 zorza、ウクライナ語 зірниця、ベラルーシ語 зараніца など地域ごとに形を変え、一人で語られることも、朝と夕の二姉妹、あるいは朝・昼(もしくは夜半)・夕の三姉妹として語られることもある。

まず押さえるべきは、この名が中世の史料に一度も現れないことである。原初年代記がキエフの丘に並んだ偶像として挙げる神々のなかにもいなければ、西スラヴの年代記にも出てこない。知られているのは19世紀以降に採集された歌・謎かけ・呪文(ザゴヴォル)のなかの姿であり、それを古い女神の残存と読むかどうかは解釈の問題である。学術的には「女神と呼びうるか」自体が争点であり続けている。

語源をたどると、スラヴ祖語 zořà は「見る・輝く」を意味する語根 zьrěti と同じところから出ており、バルト・スラヴ祖語 źoriˀ(リトアニア語 žarà)に遡る。印欧祖語の曙の女神 H₂éwsōs — ギリシアのエーオース、ローマのアウローラ、ヴェーダのウシャスの名がここから出る — とは語源上つながらない。それでいて、比較神話学が *H₂éwsōs に与えた特徴の多くをゾリャーは備えている。名は別系統、性格は共通、というのが現在の整理である。

神話・物語

ロシアの伝承では、多くの場合ゾリャーは二人の乙女として現れる。朝のゾリャー(Зоря утренняя)と夕のゾリャー(Зоря вечерняя)で、太陽の黄金の玉座の左右に立つ。朝のゾリャーは太陽が出立するとき天の宮殿の門を開き、夕のゾリャーは太陽が帰るとき門を閉じる。太陽の白馬を世話する役も語られ、いずれも太陽そのものではなく、太陽に仕える者としての位置づけである。住まいは海の彼方のブヤン島にあるという。

より新しい伝えでは三姉妹になり、小熊座に鉄の鎖でつながれた犬を見張る役を負う。鎖が切れれば世界が終わる。ただしこの話は20世紀の神話事典を経て広まったもので、中世の典拠を欠く。犬をセマルグルと名指す説明は、さらに後から加わった層である。

呪文の世界では、ゾリャーは呼びかけられる最高の力である。「朝の暁よ、夕の暁よ」と呼び、ライ麦が森のように高く樫のように太く実れと願う。「朝と夕と真夜中の母なる暁よ、汝らが静かに褪せて消えるように、この者の病と憂いも消えよ」と唱える。子の夜泣きと不眠を払う文句、産に立ち会う女を助ける文句も記録されている。東スラヴの呪文では同じ位置に生神女マリヤが置かれることがあり、「暁のマリヤ」と呼ばれる例まである。二重信仰の典型として扱われる現象である。

ベラルーシではザラ・ザラニツァと呼ばれ、聖ゲオルギオスと聖ニコラオスに出会う話が伝わる。比較神話学はこの二聖人を、曙の女神の兄弟である双子神の後身と読む。謎かけもある。「ザラ・ザラニツァ、美しい乙女が空を歩き、鍵を落とした。月は見たが黙っていた。太陽は見つけて拾い上げた」。答えは露である。

ポーランドでは三人のゾジャ(Trzy Zorze)— 朝・昼・夕 — が呪文に現れ、運命を定めるロジャニツァとしても働く。ウクライナでは「空に星は多いが、ゾリャーは朝のと夕ののふたつだけだ」と言われ、婚礼歌に繰り返し登場して縁組を司る。スロヴェニアでは太陽のソンチツァと暁のザリカが対をなし、二人の競い合いを歌う叙事歌が残る。

図像と象徴

神像は存在しない。祭祀も神殿もないからである。それでも中世の写本に、暁を女の姿で描いた例がある。

13世紀末のノヴゴロド詩篇(フルドフ・コレクション)の挿絵には二人の女性が銘とともに描かれる。一方は炎のような赤で、右手に輪の形をした赤い太陽を掲げ、左手には肩に載せた松明を持つ。松明の先の箱から淡緑の帯が伸び、それが向かい合う緑衣の女性の右手へ届く。彼女の銘は「夕のゾリャー」、左の袖からは鳥がのぞく。朝のゾリャーが太陽を送り出し、夕のゾリャーが迎える構図だと読んだのは、20世紀のスラヴ学者ザルビンである。彼はインド西部ナーシクの2〜3世紀の石窟に、松明で太陽の輪を灯す女と日没にそれを待つ女を刻んだ浮彫があることを挙げ、ウシャスとプラティユーシャの対と並べた。ただしこの挿絵はキリスト教写本のなかの擬人像であって、異教の女神の肖像ではない。

色は赤・金・黄・薔薇。同じ主題は民具にも繰り返される。スロヴァキアのオチョヴァ村の農家の門柱には、一方に金の頭の朝のゾリャーとその上に昇る太陽、他方に夕のゾリャーと沈む太陽が彫られているとされる(もっともこの読みはザルビンのもので、彼が典拠とした書物自体はそう説明していない)。19世紀の橇の背板には、宮殿のなかの円い太陽とその出口に立つ二人のゾリャー。トヴェリ地方の刺繍手巾には、馬に乗って太陽へ向かう赤と緑のゾリャー。金の小舟と銀の櫂を持つとも歌われる。太陽を輪や車輪として描く発想はリグ・ヴェーダにも『エッダ』にもあり、ゲルマンとスラヴの祭で火のついた車輪を転がす習俗と結びつけて論じられてきた。

系譜と関係

系譜は一定しない。太陽の姉妹とされ、月とダニツァ(明けの明星)の姉妹ともされ、明けの明星そのものと同一視されることもある。太陽神ダジボーグの娘とする話は繰り返し語られるが、これは中世の記録に基づくものではない。ある歌では男性の月が暁を娶り、二人のあいだに星々が生まれる。処女とされる伝えと、月の妻とされる伝えが並び立っているわけで、どちらかに整理すべきものではない。

比較の相手として挙がるのは、エーオース、アウローラ、ヴェーダのウシャス、ゲルマンのエオストレである。最もよく似るのはバルトの伝承で、明けの明星アウシュリネが太陽女神サウレのために火を熾し、宵の明星ヴァカリネが寝床を整えるという役割分担は、ゾリャー姉妹の門番の務めと重なる。アウシュリネとヴァカリネを太陽と月の娘とし、母の宮殿と馬の世話をさせる異伝もある。ただし、これらは機能と主題の一致であって、名も系統も同じではない。門を開き閉じる境界の番人という役割の共通性が、印欧語族の古層に由来するのか、それとも日の出と日の入りという同じ現象から独立に生まれたのかは、なお決着していない。

文化的足跡

セルビア・クロアチア語で金星は、朝に見えるときゾルニャチャ、夜に見えるときヴェチェルニャチャと呼ばれる。明けの明星をデンニツァ、ゾルニツァ、ザルニツァと呼ぶ地域も広い。ルーマニア語で「夜明け」を意味する zori はスラヴ語からの借用で、コリンダの歌 zorile にもその名が残る。婚礼の日に歌われる「ゾリューシカ」は今も知られる民謡である。

現代の創作では、ニール・ゲイマンの小説『アメリカン・ゴッズ』(2001年)にシカゴでチェルノボグと同居する三姉妹として登場したことが最も広く知られる。三人目の「真夜中のゾリャー」はゲイマンの創案だが、以後の通俗的な紹介ではしばしば伝承の一部として語り直されている。伝承と創作の層がこれほど短期間で入れ替わる例は珍しく、ゾリャーを調べるときは、いま読んでいる記述がどの層のものかを常に確かめる必要がある。

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領分・別名

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資料

Wikidata
Q226831 — 骨格データの出典
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Zarya (mythology) — 図像カテゴリ