ウシル
ウシルス · usil
エトルリアの太陽神。光輪と翼を備えた若者として表され、葬送の車の飾りに好まれた。奉献碑に名がなく、祭祀の実態は分からない。
解説
概要
ウシル(エトルリア語 usil)は、エトルリア神話の太陽神である。ギリシアのヘーリオスにあたり、エトルリアがローマに併合されたのちはローマのソールと重ねられた。多くは男神として表されるが、女性として描かれた例も少なくない。
図像に現れるのは前6世紀の末からである。エトルリアの美術は、そもそも太陽や月といった天体を神の姿で描く習慣を持たなかった。天体の神々が姿を得るのは、ギリシアの神話と美術の影響が及んでからのことである。
神話・物語
物語は伝わらない。この神の名が確認できるのは、亜麻布の書(前3世紀ごろ)と、カプアの瓦板文書タブラ・カプアーナ(前470年ごろ)である。いずれも祭儀暦と見られる文書で、年ごとの祭と祀り方を並べていたらしい。
ただし奉献品にその名が刻まれた例は一つも見つかっていない。神殿も、祭日も、祈りの言葉も分からない。祭儀文書に名を連ねながら、崇拝の実態がまったく見えない神である。
ピアチェンツァの肝臓では、凸面の側に「ティウル」(月)と並んで名が現れる。この二つの名が十六の天区を「ウシルの側」と「ティウの側」に二分しており、太陽と月が天空の区画そのものを分ける枠として用いられていたことを示す。
図像と象徴
若い男として、腰または股から上を裸に、翼と外衣、そして光輪あるいは放射状の冠を備えて描かれる。海から昇り、火の球を手にする図もある。
エトルリア人は青銅細工に長け、ウシルを表した小像と鏡の線刻が多く残る。とりわけウシルの装飾金具は、有力者の葬送に用いられた車に取り付けられるのが常であった。エルミタージュ美術館が蔵する車の飾り金具はその一例である。太陽の神が葬送の具を飾るという組み合わせは、日ごとに沈み昇る太陽に死と再生を重ねる発想の現れと見られている。
系譜と関係
暁の女神テサンと組にされ、二柱が並ぶ図、あるいは同じ車に乗る図が多い。またカタとの関わりも取り沙汰される。カタが「太陽の娘」「太陽の眼」と呼ばれることから、ウシルの娘とする読みが出されているが、研究者の意見は一致していない。
アプルがウシルの名でも呼ばれたとする伝えもあり、太陽と光をめぐる神格の境目は、エトルリアではあまり明確でない。名が複数あって神が一柱なのか、神が複数あって役割が重なるのかは、資料の性質上決めにくい。
文化的足跡
ローマの太陽祭祀にどれだけ流れ込んだかを測ることは難しい。ローマのソールには共和政期以来の独自の祭祀があり、ウシルからの直接の継承を示す証拠はない。エトルリアの太陽神が残したのは、むしろ図像である。光輪をいただき翼を備えた若者という型は、放射状の冠をかぶるローマのソール・インウィクトゥスの像と、系譜の上でつながっている。