トゥルムス
トゥルムシュ · turmś · カミッルス
エトルリアの伝令と交易の神、そして魂の導き手。名はギリシア由来ではなく、エトルリア固有のものである。
解説
概要
トゥルムス(エトルリア語 turmś)は、エトルリア神話で神々の伝令と交易を司る神である。ローマのメルクリウス、ギリシアのヘルメースにあたり、標識も同じ——ケーリュケイオン(伝令の杖)、しばしば翼のついた旅帽ペタソス、そして翼の生えたサンダルである。
名の由来は重要である。ヘルクレやアプルの名がギリシア語からの借用であるのに対し、トゥルムスの名はフフルンスと同じくエトルリア固有のものである。像と物語は借りても、名は借りていない。エトルリアの神々を一律に「ギリシアの移入」と見ることができない理由の一つがここにある。
神話・物語
神々の使いとして、とりわけティニアに仕える者として描かれるが、他の神の「奉仕(ministerium)」に立つとも考えられている。銅鏡の場面では、エルクスントレの審判で三女神を導き、ヘルクレやペルセの物語にも姿を見せる。
エトルリア美術がとくに好んだのは、魂を導く役である。石棺には、カルンとケルベロスと肩を並べて刻まれた例がある。「アイタのトゥルムス(Turmś Aitaś)」と銘された図では、冥界でオデュッセウスに助言を与えるためにティレシアースの影を連れてくる。ギリシアの物語を借りながら、その配役をエトルリアの冥界の枠組みに置き直していることになる。
祭祀の跡は乏しい。神像よりも、鏡のような日用品の装飾から知られる神である。ただしコルトーナから出た一件の奉献は、この地にトゥルムスの神殿があったことを示すと解されている。
図像と象徴
ケーリュケイオン、有翼のペタソス、有翼のサンダル。ヘルメース像の型をそのまま受け取っている。ルーヴル美術館が蔵する青銅像はその一例である。
系譜と関係
系譜は伝わらない。アルトゥメの兄とする伝えがある。
ベルナール・コンベ=ファルヌーは、セルウィウスとマクロビウスの記述から、「ヘルメース=トゥルムス」がカミッルス——「奉仕する者」の意——という添え名を持っていたと読む。カリマコスの注釈には「カドミロスはテュレニアではヘルメースである」とあり、コンベ=ファルヌーはカミッルスとカドミロスを同じ名の異形と見た。ローマの祭祀で少年の助祭をカミッルスと呼んだことにも、この語は連なっている。
文化的足跡
ローマのメルクリウスは、商業の神という性格をとりわけ強く帯びた。エトルリアを介してイタリアに入った伝令の神が、地中海交易の担い手たちの神として定着したことになる。冥界へ魂を送る役のほうは、カローンやカルンと役割を分け合いながら、後世の死者の導き手の観念に受け継がれた。