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ヴリトラ
PLATE — वृत्र
BHARATA · ヒンドゥー神話
वृत्र

ヴリトラ

アヒ · ヴリトラースラ · Vṛtra

Unknown author, 1916 PUBLIC DOMAIN

ヴェーダ神話の蛇の怪物。水を封じて旱魃をもたらす障害の化身で、インドラが金剛杵ヴァジュラで討った。この功でインドラはヴリトラハンの名を得る。

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解説

概要

ヴェーダ神話に現れる蛇の怪物。名は「覆うもの」「妨げるもの」を意味し、印欧祖語の「覆う」を表す語根に遡る。水を閉じ込めて世界から流れを奪う存在であり、旱魃そのものの神格化とみられる。インドラが金剛杵ヴァジュラをもって討ち、封じられていた水を解き放った——『リグ・ヴェーダ』が繰り返し歌うこの戦いは、ヴェーダ神話の中心をなす主題である。インドラの異名ヴリトラハン(ヴリトラを討つ者)は、この一戦に由来する。

神話・物語

『リグ・ヴェーダ』の記述は簡潔だが反復が多い。ヴリトラは山に横たわって川の流れを堰き止めていた。生まれたばかりのインドラは工匠神トヴァシュトリの家でソーマを大量に飲んで力を得、同じくトヴァシュトリの鍛えたヴァジュラを執って向かう。ヴィシュヌが三歩によって戦いの場を広げ、インドラは蛇の九十九の城砦を砕いた。戦いは一方的ではなく、ヴリトラはインドラの両顎を砕いたとも伝えられる。倒れた大蛇の下から水が流れ出し、世界はふたたび潤う。

叙事詩とプラーナは、この単純な構図に動機と倫理を加えた。『マハーバーラタ』では、ヴリトラはトヴァシュトリが作り出した存在である。インドラに殺された自らの子ヴィシュヴァルーパの復讐のために生み出された、という筋立てになっている。ヴリトラはインドラを呑み込むほど強く、神々は和議を仲介した。金属でも木でも石でもないもの、乾いても濡れてもいないもの、昼でも夜でもないときには襲わない——そう誓ったインドラは、黄昏の渚で海の泡を武器としてこれを討つ。誓いの言葉の隙を突く形である。

この勝ち方の代償として、インドラはバラモン殺しの罪(ブラフマハティヤー)を負う。ヴリトラがバラモンの子であったためであり、彼は罪から逃れて長く身を隠すことになる。『バーガヴァタ・プラーナ』はさらに踏み込み、ヴリトラをヴィシュヌの敬虔な信者として描いた。死に臨んで神への帰依を語るこの造形は、討たれる側に理と徳を認める後代の傾向をよく示している。

図像と象徴

図像はきわめて乏しい。ヴェーダの怪物であって寺院祭祀の対象ではなく、主要な遺跡に彼を刻んだ作例は知られていない。近代の書物の挿絵に、大蛇の巻きついた山とその前に立つインドラという構図が描かれた程度である。図像の不在そのものが、この存在の性格を語っている。ヴリトラは姿をもつ悪役というより、水が流れないという事態そのものだからである。

象徴の読み方は古くから割れてきた。季節的な旱魃と雨季の到来を語るとする読み、雲を割って雨を降らせる雷神譚とする読み、障害を除いて世界に秩序を与える王権の神話とする読みが並ぶ。名が「覆うもの」を意味することから、水の神ヴァルナ(「包むもの」)との語源上の近さが指摘されるが、神話上の役どころは正反対である。

系譜と関係

『リグ・ヴェーダ』では母をダーヌとし、ダーナヴァ(ダーヌの子ら)と呼ばれるアスラの一族に属する。叙事詩以降はトヴァシュトリの子とされ、兄にヴィシュヴァルーパを置く。

インドラの称号ヴリトラハンは、『アヴェスター』のウルスラグナと語形の上で対応する。ただしイラン側では、この語は障害を破る力そのものが独立したヤザタとして神格化されており、対応するのは怪物ではなく「討つ者」の側である。同じ語がインドで敵の名を、イランで神の名を生んだことになる。

比較神話の側では、水を堰き止める蛇を英雄が討つという型が印欧語圏に広く分布することが指摘されてきた。北欧のヨルムンガンド、ギリシアのテューポーンがしばしば並べて論じられる。ただし細部までが一致するわけではなく、共通の型を認めることと共通の起源を主張することとは、区別して扱う必要がある。

文化的足跡

ヴェーダ祭式においてインドラ讃歌の中核をなしたこの物語は、ヒンドゥー教の展開とともにインドラの地位が下がるにつれ前面から退いた。それでも「ヴリトラを討つ」という表現は、障害の除去を指す言い回しとして文献に残り続けている。

近代以降は、比較神話学の議論のなかで繰り返し参照される事例となった。竜退治神話の分布を論じる際には、ほぼ必ず引かれる名である。日本ではファンタジー作品やゲームを介して知られるようになったが、その多くは巨大な蛇竜という造形のみを取り、旱魃の神格化という原義からは離れている。

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領分・別名

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資料

Wikidata
Q797498 — 骨格データの出典
Commons
Vṛtra — 図像カテゴリ