ヘーメラー
ヘーメレー · ヘメラ · ヘメレ
ギリシア神話の昼の女神。エレボスとニュクスの娘で、母ニュクスと入れ替わりに世界を巡り、人々に光をもたらす。
解説
概要
ヘーメラー(Ἡμέρα / Hēmera、イオニア方言でヘーメレー)は、昼の光を神格化したギリシアの原初神である。『神統記』の系譜では、太陽神ヘーリオスよりも古い世代に置かれる。昼という時間そのものであって、太陽という天体とは別に数えられている。
神話・物語
ヘーシオドスによればエレボス(幽冥)とニュクス(夜)の娘で、アイテールの兄妹。ヒュギーヌスはより古くカオスの娘とし、ニュクス・エレボス・アイテールと同世代に置く。
『神統記』が描く母娘の関係は印象的である。二柱は世界の西の果てに館を共有するが、同時にそこにいることはない。ニュクスが夜をもたらして世界を巡るあいだヘーメラーは館で待ち、ヘーメラーが光を携えて出ていくあいだニュクスが待つ。顔を合わせるのは、青銅の敷居をまたぐ交替の一瞬だけである。時間の交替を、住居と往還という具体で語っている。
固有の逸話は乏しく、名はしばしば他の女神に振り替えられた。バッキュリデースはアルテミスの別名として用い、パウサニアースは暁の女神エーオースをヘーメラーと呼ぶ。シケリアのディオドーロスはエジプトの神々をギリシア名で語る際、ヘーメラーをオシーリスとイーシスの母に当てている。
図像と象徴
昼を単独で表した古代の作例は少ない。本ページの主画像は、小アジアのアプロディシアスにあるセバステイオン(皇帝礼拝の建築複合)から出た後1世紀の浮彫で、ヘーメラー(昼)と解されている。
夜と昼を一対で表す構図そのものは古代から続く。ニュクスが星をちりばめた衣と翼で表されるのに対し、ヘーメラーは松明や光をかざす姿をとる。持物ではなく明暗の対比で描き分ける点が、時間の神格らしい扱いである。
系譜と関係
エレボスとニュクスの娘、アイテールの兄妹。ヒュギーヌスはアイテールとの間にガイア・ウーラノス・タラッサを、キケローはウーラノスとの間にヘルメースを生んだとする。後者はローマ側の系譜整理であり、ギリシアの通説(ゼウスとマイアの子)とは別である。
文化的足跡
昼と夜を一対の女性像で表す寓意は、ルネサンス以降の絵画と彫刻に定着した。ブグローの《昼》(1884年)のように、19世紀のアカデミー絵画では対作品として繰り返し制作されている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。