ナンダ
ナンダゴーパ · 牛飼いの長 · ヤショーダーの夫
クリシュナの育ての父。ヴラジの牛飼いたちの長で、ゴーヴァルダナ山の祭を容れた決断によっても知られている人物。
解説
概要
ナンダ(Nanda / नन्द)は、クリシュナの育ての父である。ヴラジの牛飼いたちの長で、村ゴークラ(のちヴリンダーヴァン)を治めた。妻はヤショーダー。ヴァスデーヴァの友であり、その縁によって嬰児を託されたとする伝えもある。ナンダゴーパ(牛飼いのナンダ)の名でも呼ばれる。
神話・物語
カンサの牢で生まれた嬰児が、父の手でヤムナー河を渡って運ばれた夜、彼の家では妻が女児を産んでいた。二人の子は入れ替えられ、彼は何も知らぬまま神を我が子として育てる。
牛飼いの長としての彼の判断が、いくつかの場面を動かす。村人が例年どおりインドラへの祭を営もうとしたとき、クリシュナは、恵みをもたらすのは山と牛と森であって天の神ではないと説き、ゴーヴァルダナ山を祀るよう勧めた。彼はこれを容れて祭の対象を改める。怒ったインドラが七日七夜の豪雨を降らせると、クリシュナが山を持ち上げて村と牛を守った。在来の祭祀が改められる転換点であり、その決断を下したのは長である彼である。
カンサが弓の祭を口実にクリシュナとバララーマをマトゥラーへ招いたとき、彼も村の者たちを率いて同行した。だが子がカンサを討ち、実の親のもとへ戻ったのちは、村へ帰るほかなかった。マトゥラーからの使者ウッダヴァが、残された者たちを慰めるために遣わされたと語られる。
図像と象徴
固有の像容は伝わっておらず、独立した礼拝像の伝統もない。図像に現れるのは、幼子を抱く妻の傍らに立つ姿か、ゴーヴァルダナの祭を営む場面である。象徴となるのは牛の群れであり、王でも聖仙でもない一人の牧夫が、神の父となるという構図をこの人物は担っている。
系譜と関係
妻はヤショーダー、育て子はクリシュナ。ヴァスデーヴァの第一夫人ローヒニーとその子バララーマも、彼のもとで暮らした。ヴァスデーヴァとは、一族を異にしながら親交があったとされる。
文化的足跡
彼の名にちなむナンドートサヴァ(ナンダの祝い)は、ジャンマーシュタミーの翌日に営まれる祭で、ヴラジ地方ではとりわけ盛んである。乳製品を撒き、村じゅうで祝う形式をとる。
バクティ文学において、彼とヤショーダーの家は理想の家庭として描かれてきた。王宮でも庵でもない牛飼いの村に神が育つという設定は、祭式の知識も身分ももたぬ人々に信仰の道を開いたバクティの主張と重なる。神を育てたのが王ではなく牧夫であったという一点が、この伝統においては繰り返し強調される。