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保食神
PLATE — 保食神
YAMATO · 日本神話
保食神

保食神

うけもちのかみ · 保食大神 · 宇氣母知神

鹿児島神宮 境外末社 保食神社/Saigen Jiro, CC0 CC0

『日本書紀』の一書にのみ現れる食物の女神。口から飯や魚を吐いて月夜見尊をもてなし、穢らわしいと斬られる。その屍から五穀と牛馬と蚕が生じた。

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解説

概要

保食神(うけもちのかみ)は、食物を司る神。『古事記』には現れず、『日本書紀』巻第一・神代上の第五段に付された一書(第十一)にのみ登場する。名の「ウケ」は食物を意味し、伊勢神宮外宮の豊受大神の「ウケ」、宇迦之御魂神の「ウカ」と同源とされる。この一書が語るのは、殺された神の屍から穀物と家畜と蚕が生じたという食物起源の物語であり、同時に、太陽と月がなぜ別々に空を渡るのかを説く話でもある。神格そのものよりも、その死が何を生んだかによって記憶されてきた神である。

神話・物語

一書はまず、イザナギが三柱の子に統治を割り当てるところから始まる。天照大神には高天原を、月夜見尊には日に並んで天の事を、素戔嗚尊には海原を治めさせた。やがて天照大神は、葦原中国に保食神という神がいると聞き、ツクヨミに様子を見てくるよう命じる。

保食神は首をめぐらせ、国に向かえば口から飯を、海に向かえば大小の魚を、山に向かえば粗い毛と柔らかい毛の獣を吐き出し、それらを数多の机に盛って月夜見尊を饗した。月夜見尊は、口から吐いたもので饗すとは穢らわしいと激怒し、剣を抜いて保食神を斬り殺す。報告を受けた天照大神は「汝は悪しき神である」と告げて対面を拒み、以来、日と月は一日一夜を隔てて別々に住むこととなった。日と月が同時に天にない理由が、ここで語られている。

のちに天照大神が天熊人を遣わすと、保食神はすでに死んでいた。その屍の頭からは牛馬が、額からは粟が、眉からは蚕が、目からは稗が、腹からは稲が、陰部からは麦と大豆・小豆が生じている。天熊人がこれらを持ち帰ると天照大神は喜び、民が生きてゆくために必要なものであるとして田畑の種とした。また繭を口に含んで糸を引き、これが養蚕の始まりとなったという。

同じ型の物語を、『古事記』はスサノオ大宜都比売の話として伝える。殺す神が月夜見尊ではなく素戔嗚尊であり、生成物と体の部位の対応も一致せず、種を回収するのも天照大神ではなく神産巣日御祖神である。両書は同じ骨格の話を別の登場人物に振り分けており、どちらが原型でどちらが派生であるとは決めがたい。

図像と象徴

保食神そのものを主題とした古い作例は伝わっていない。この神が目に見える形をとるのは、むしろ習合した先においてである。

屍の頭から牛馬が生じたという一節から、保食神は馬の神としても祀られた。東日本に広く分布する駒形神社は保食神を祭神とし、近世にはさらに馬頭観音と重ねられている。食物起源の一句が、そのまま馬の守護という別の職能を生んだかたちである。

もうひとつの受け皿が稲荷である。食物神としての性格から保食神は宇迦之御魂神と同一視され、稲荷神を祀る社の祭神を保食神とする例は各地にある。ただし、そこで参拝者が目にするのは狐の像であって、狐は神使であり保食神そのものではない。像を持たない神が、他の神の像を借りて可視化されるという、この神の置かれた位置がここに表れている。

系譜と関係

一書は保食神の親も子も記さない。葦原中国にいた神とのみ伝え、系譜のうちに位置づけようとしない。

大宜都比売とはしばしば同一神とされる。また、豊受大神・宇迦之御魂神とともに「ウケ/ウカ」の名を負う食物神の一群をなす。ただし三者を一つの神に還元してよいわけではない。豊受大神は丹波から迎えられた御饌の神としての来歴を持ち、宇迦之御魂神は『古事記』で素戔嗚尊の子とされるなど、それぞれ別個の伝承を負っている。名の要素が共通することと、同じ神であることとは別である。

文化的足跡

殺された者の屍から作物が生じるという語りは、日本だけのものではない。ハイヌウェレ型神話と呼ばれるこの類型は、東南アジアを中心に太平洋から南北アメリカにかけて広く分布する。芋を切って地に埋めれば再び実を結ぶという根栽農耕の経験がその底にあるとされ、日本の例で生じるものが芋ではなく穀物と蚕であるのは、稲作と養蚕を軸とする社会に合わせた変形と考えられている。保食神の物語は、世界的な型の日本における現れである。

祭祀の面では、竹駒神社(宮城県岩沼市)をはじめ、保食神を祭神とする社は東日本に多い。現代の創作では、この一書はもっぱらツクヨミの人物像を語る文脈で引かれ、月神が手を汚す唯一の場面として扱われることが多い。

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領分・別名

INTERPRETATIO — 同一視・同源
稲荷神 日本神話 同一視
食物神としての習合。稲荷の祭神である宇迦之御魂神と同一視され、保食神を祭神とする稲荷社が各地にある。名のウケとウカは食物を意味する同源の語とされる。
オオゲツヒメ 日本神話 同一視
『日本書紀』一書(第十一)の保食神殺害譚と『古事記』の大宜都比売殺害譚は同型で、古くから同一神とされてきた。ただし殺害者・生成部位・種の回収者は両書で一致しない。
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資料

Wikidata
Q2280323 — 骨格データの出典
Commons
Ukemochi — 図像カテゴリ