トート
トト · ジェフティ
エジプト神話で書記・知恵・魔術・月を司る神。トキの頭をもつ人、またはヒヒの姿で表される。文字を発明し、神々の書記として一切を記録し、死者の審判では心臓の計量を書き留める。ギリシアではヘルメースと同一視された。
解説
概要
エジプト神話で、書記・知恵・魔術・月を司る神。トキ(イビス)の頭をもつ人、あるいはヒヒの姿で表される。文字と言葉を発明し、暦と時を計り、神々の書記として一切を記録する存在とされた。争いを裁く公正な調停者であり、宇宙の秩序と真理(マアト)を言葉によって支える。知の神としての知恵の神の性格と、時を計る月神の性格とをあわせもつ。
神話・物語
トートは神々の言葉を記す書記であり、太陽神ラーに仕えて天の運行を計った。神々の争いにあってはしばしば裁定者となり、セトに傷つけられたホルスの眼を癒し、対立するホルスとセトのあいだを取り持ったと語られる。月に関わる名高い挿話もある。天空の女神ヌトが子を産むことを禁じられたとき、トートは月と盤上遊戯を打って光の一部を勝ち取り、暦に五日を加えてヌトが子を産めるようにしたという。死者の審判では、死者の心臓が真理の羽根と釣り合うかを計る「心臓の計量」の場に立ち会い、その結果を記録する書記を務めた。
図像と象徴
最も一般的な姿は、トキの頭をもつ人の体に、書記の道具である葦筆と palette(パレット)を携えるものである。トキの長く湾曲した嘴は、月の弧を思わせる。もう一つの聖獣はヒヒで、しゃがんだヒヒの像としても表された。頭上に月の円盤と三日月をいただくこともある。書字板や巻物を手にする姿は、記録し、数え、秩序づける知の神という本質をよく示している。
系譜と関係
トートは他の多くの神々とは一線を画し、しばしば自ら生じた者、あるいはラーの心から生まれた者とされる。書記と計測の女神セシャトを伴侶とする伝えがある。信仰の中心地はヘルモポリス(クムヌ)で、ここはオグドアド(八柱の原初神)とも結びついた。ギリシア人はこの知恵の神を自らのヘルメースと同一視し、都市を「ヘルモポリス(ヘルメースの町)」と呼んだ。この習合からは、後世の神秘思想が仰ぐ賢者ヘルメス・トリスメギストスが生まれた。
文化的足跡
文字と知の守り手というトートの像は、古代エジプトにおいて学問と書記の理想そのものであった。ギリシア・ローマ世界では、彼とヘルメースの習合によって錬金術・占星術・神秘思想の系譜が育ち、ルネサンス期のヨーロッパにまで影響を及ぼした。知恵を授ける鳥の頭の神という姿は、今日も映像作品やゲームのなかで、しばしば知と魔術の象徴として引かれている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。