トクセウス
トクシオス · トクセウス · Toxeus
ギリシア神話に現れる複数の人物の名。カリュドーンの猪狩りで褒賞をめぐって甥メレアグロスに殺されたプレウローンの王子が最もよく知られる。
解説
概要
トクセウス(Τοξεύς、「弓を引く者」)は、ギリシア神話に現れる複数の人物の名である。
同名の人物たち
プレウローンの王子。 テスティオス王の子で、アルタイアーの兄弟にあたる。カリュドーンの猪狩りに参加したが、猪の皮という褒賞が甥メレアグロスによって女アタランテーに与えられたことに怒り、続く口論のなかでメレアグロスに殺された。
この殺害が物語の要である。姉妹アルタイアーは、息子メレアグロスが自分の兄弟を殺したことを知り、その命に結ばれた薪を炉に投じた。薪が燃え尽きるとともにメレアグロスは死ぬ。
カリュドーンの王子。 オイネウスとアルタイアーの子で、上のトクセウスの甥にあたる。メレアグロス、クリュメノス、ペリパース、アゲラーオス、テューレウス、デーイアネイラ、ゴルゲー、エウリュメデー、メラニッペーの兄弟である。
父が葡萄畑を守るために掘った堀を跳び越えたため、父自身の手で殺された。
ウーラノスの子トクシオス。 燕の巣から思いついて、粘土で建物を造ることを発明したとされる。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
第一のトクセウスの死は、カリュドーンの猪狩りの物語を悲劇へ転じさせる。狩り自体は成功し、猪は討たれる。しかし褒賞の分配で争いが起こり、伯父が甥に殺され、母が息子を殺す。共同の事業が身内の殺し合いに終わるという構造である。
第二のトクセウスが父に殺される理由——堀を跳び越えたこと——は、一見些細である。境界を越えることが死に値するという理解が、そこには含まれている。ローマのテルミヌスをめぐる境界の観念や、ロムルスがレムスを殺す挿話とも通じる。
関わる神格・伝承
第一の父はテスティオス、姉妹はアルタイアー、甥はメレアグロス。第二の父はオイネウス、母はアルタイアー。
伯父と甥が同じ名を持つという事態は、ギリシアの命名慣行——祖父や伯父の名を子に付ける——の反映とみられる。実際の家族の命名がそのまま系譜に写された結果である。
文化的足跡
日本語圏では、カリュドーンの猪狩りの物語においてメレアグロスに殺される伯父として言及される。名まで挙げられることは少ない。
しかしこの人物の死がなければ、アルタイアーの薪の挿話も、メレアグロスの死もない。狩りの成功が破滅に転じる転換点に、この人物が置かれている。