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ネメアーの獅子
PLATE — ΝΕΜΈΟΣ ΛΈΩΝ
HELLAS · ギリシア神話
ΝΕΜΈΟΣ ΛΈΩΝ

ネメアーの獅子

ネメアの獅子 · ネメアのライオン · ネメアー獅子

Francisco de Zurbarán(Museo del Prado) PUBLIC DOMAIN

ネメアーの谷を荒らした不死身の獅子。ヘーラクレースの最初の難行の相手で、矢も刃も通さぬ毛皮ゆえに素手で絞め殺された。その毛皮こそ、以後のヘーラクレース像を決定づけた衣である。

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解説

概要

ネメアーの獅子(古代ギリシア語: Νεμέος λέων)は、ペロポネーソス半島北東のネメアーの谷に棲みつき、人と家畜を襲ったとされるギリシア神話の獅子である。黄金の毛皮はいかなる武器も通さず、その爪はどんな鎧をも裂いたという。

この獣の要点は、退治そのものより退治の後にある。ヘーラクレースが纏う獅子の皮は、この獅子の皮である。 棍棒と獅子皮という、ギリシア美術がヘーラクレースを指し示すために用いた記号の半分が、ここで生まれた。

登場する物語

系譜は割れている。ヘーシオドス『神統記』は父をオルトロスとし、母を「彼女」としか書かない。この「彼女」をキマイラと読むかエキドナと読むかケートーと読むかで、獅子の兄弟はテーバイのスフィンクスにもなればラドンにもなる。アポロドーロスはテューポーンの子とした。まったく別系統の伝えもあり、アイリアノス(エピメニデースを引く)とヒュギーヌスによれば、獅子を生んだのは月の女神セレーネーで、ヘーラーの求めに応じて月からアペサース山へ投げ落としたのだという。ヘーシオドスに従えば、獅子を育てネメアーの丘へ放ったのはヘーラーである。

最初の難行としてエウリュステウスが課したのが、この獅子の退治だった。道中クレオーナイで出会った少年と、三十日以内に生きて戻れば町がゼウスに獅子を捧げ、戻らなければ少年が自らを捧げるという約束を交わす。別の伝えでは、相手は獅子に息子を奪われた羊飼いモロルコスだった。

ヘーラクレースは矢を射たが、鏃は腿で弾かれた。そこで獅子を洞穴へ追い込み、二つある入口の一方を塞ぎ、暗く狭い中へ自ら踏み込む。棍棒で昏倒させ、最後は腕を首に巻いて絞め落とした。武器の通じない相手を素手で仕留めるという筋は、そのまま「難行」という主題の宣言でもある。

皮を剝ぐ段でもう一つの難題が来る。小刀も砥いだ刃も石も歯が立たない。アテーナーが獅子自身の爪を使えと教えた、というのが一般の伝えだが、テオクリトスは女神を出さず「そのとき何かの神が、獅子の皮をその爪で裂くことを思いつかせた」と書く。三十日目に骸を担いで戻ったヘーラクレースを見て、エウリュステウスは城壁の中へ入ることを禁じ、以後は地中に埋めた青銅の甕に隠れ、コプレウス(糞の男)を介してしか命令を伝えなくなった。次の相手はレルネーのヒュドラーである。

図像と象徴

主画像はフランシスコ・デ・スルバランの《ネメアーの獅子と戦うヘラクレス》(1634年、プラド美術館)で、ブエン・レティーロ宮のためのヘラクレス連作の一枚である。暗い岩場で、裸体の英雄が獅子の首に腕を回し、獅子が後肢で立って抗う。弓が足元に打ち捨てられているのが見どころで、武器が役に立たなかったことを画面が説明している。

古代からこの獣は、ほぼ例外なくヘーラクレースとの組打ちとして描かれてきた。獅子だけを描いた作例は稀である。それはこの獣が独立した怪物というより、英雄の属性の由来として記憶されたことを意味する。図像史上さらに重要なのは獅子皮そのものの扱いで、獅子の頭を頭巾のように被り前肢を胸で結ぶ姿は、遠目にも一目でそれと知れる意匠として定着した。

ただし、この衣は最初からあったのではない。獅子皮のヘーラクレースを最初に打ち出したのは前6世紀のステーシコロスだとされ、それ以前の彼は当時の戦士の身なりで表されていた。 皮が不死身になり、不死身の皮を纏うことに意味が生まれてはじめて、この衣裳は成立する。獅子は死の徴でもあり、それを剝いで身に着けることは、死の脅威を身の守りへ裏返す所作でもあった。この記号は後に転用され、アレクサンドロス大王は「アレクサンドロス石棺」で獅子の皮を頭に載せて戦車に立つ。

関係する神格・退治した英雄

退治したのはヘーラクレース。背後にいるのはヘーラーで、獅子を養い、あるいはセレーネーに投げ落とさせ、自らの領地で狩ることを許して英雄を苦しめた。アテーナーは皮を剝ぐ知恵を授ける側に立つ。同じ系譜に連なる怪物は、オルトロス、ケルベロス、ヒュドラー、テーバイのスフィンクスと、いずれもヘーラクレースの物語圏に重なる。

なお、毛皮は不死をもたらすとする伝えもあった。アイスキュロスの失われた悲劇『トラーキアの女たち』では、幼い大アイアースがヘーラクレースに皮で包まれて不死を授かるが、矢筒が邪魔をして脇腹だけ皮が触れず、そこだけが不死にならなかったという。アイアースが自らの剣で果てる最期は、この一点に懸かっている。

文化的足跡

ゼウスはこの功業を記念して獅子を天に上げ、獅子座とした——エラトステネース『星座物語』が伝える由来である。ネメアーではこの難行に因む競技祭が営まれ、勝者は野生のセロリの冠を戴いた。獅子皮を纏うヘーラクレース像は、ローマの模刻を経てルネサンス以降のヨーロッパ絵画に流れ込み、権力者の肖像に借用され続けた。ゲームや漫画でも「不死身の獅子」の名は使われるが、毛皮が英雄の衣になるという肝心の後日談は、しばしば落ちている。

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領分・別名

親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承点線=異伝・別系統

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資料

Wikidata
Q199438 — 骨格データの出典
Commons
Nemean Lion — 図像カテゴリ