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オルトロス
PLATE — ὌΡΘΡΟΣ
HELLAS · ギリシア神話
ὌΡΘΡΟΣ

オルトロス

オルトス · オルトゥス

Bibi Saint-Pol PUBLIC DOMAIN

ギリシア神話の双頭の犬。世界の西の涯でゲーリュオーンの赤い牛を守り、十番目の功業に来たヘーラクレースに倒された。ケルベロスの兄弟にあたる。

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解説

概要

オルトロス(Ὄρθρος / Orthros。オルトス Ὄρθος とも)は、頭を二つもつ犬の怪物である。テューポーンエキドナの子で、冥界の門を守るケルベロスの兄弟にあたる。世界の西の涯エリュテイア島で、ゲーリュオーンの赤い牛の群れを守っていた。

名の形は資料によって揺れる。最古の神統記はオルトス(「真っ直ぐな」)と呼び、アポロドーロスはオルトロス(「早暁」あるいは「速い」)と記す。呼び名すら定まらないほど、彼は自分自身の物語をもたない怪物である。

登場する物語

登場は一度きりである。ヘーラクレースの十二功業の第十、ゲーリュオーンの牛を奪う旅で、上陸したヘーラクレースにまず跳びかかったのがこの番犬であった。アポロドーロスによれば、オリーヴの棍棒の一撃で仕留められる。続いて加勢に来た牧夫エウリュティオーン、そして主のゲーリュオーンが倒された。

ピンダロスは「ゲーリュオーンの犬たち」と複数形で書いており、この用法は他に例がない。頭が複数あることを踏まえたのか、犬が複数いる伝えを知っていたのかは判断がつかない。

系譜の上では、彼はむしろ怪物の父として重い。ヘーシオドスはスフィンクスネメアーの獅子をオルトロスの子とする。ただし母として想定されているのが誰なのかは文の構造から確定できず、自らの母エキドナとも、姉にあたるキマイラとも、海の女神ケートーとも読める。神話の系図が一本の線として書かれていないことを示す好例である。

図像と象徴

図像はすべて、ゲーリュオーンの牛をめぐる場面に付随する。単独で描かれることはなく、たいていはすでに倒れているか、矢を受けて死にかけている。

現存最古の作例は、サモス島出土の前7世紀末の青銅製馬具(サモス B2518)である。頭の一つに矢が刺さった二頭の犬が、ゲーリュオーンの足元にうずくまり、左のヘーラクレースと向かい合う。前6世紀末のエウプロニオスによる赤絵キュリクス(ミュンヘン国立古代美術館 2620、ウルチ出土)は、腹を上に向けて倒れ、胸を矢に貫かれてなお蛇の尾をよじらせるオルトロスを描く。スウィングの画家の黒絵ネックアンフォラ(パリ、メダイユ室)では、一つの頭に二本の矢が刺さり、尾は普通の犬のそれである。

頭の数は一定しない。二頭とするのが通例だが、前6世紀半ば以降は一頭で描かれる例もあり、前5世紀初頭のキュプロス出土の石浮彫は三頭のオルトロスを示す。尾も犬のものと蛇のものが並存する。ケルベロスが図像ではしばしば三頭ではなく二頭で描かれることと合わせると、この二匹の番犬は造形の上でも区別が曖昧であった。古典学者アーサー・バーナード・クックは、オルトロスをケルベロスの「分身」と呼んでいる。

なお、棍棒で殴り殺されたとするアポロドーロスの記述に対し、美術は一貫して矢を選ぶ。文献と図像がずれる典型例である。

関わる伝承

父はテューポーン、母はエキドナ。兄弟にケルベロス、ヒュドラー、キマイラ、ラードーンらが数えられる。子とされるのはスピンクスとネメアーの獅子である。

守るべきものを持つ多頭の犬という点で、ケルベロスとの並行は明瞭である。一方は冥界の門を、他方は世界の西の涯の牛を守る。どちらもヘーラクレースの功業のなかで打ち負かされた。ただしケルベロスは殺されず、生きたまま連れ出されて再び門に戻る。オルトロスは殺される。境界の番人として残されるか、退治されて終わるかの違いが、両者の位置の差を示している。

文化的足跡

古代においてすら独立した物語をもたなかったこの怪物は、後世の美術や文学にもほとんど現れない。ルネサンス以降の画家たちがゲーリュオーンの功業を描く際も、番犬は省かれるか背景の一部に収まる。

名が広く知られるようになったのは、20世紀後半以降の幻想文学やゲームがギリシアの怪物を網羅的に取り込んでからである。多くの場合、ケルベロスの縮小版という扱いを受けている。

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領分・別名

親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承点線=異伝・別系統

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資料

Wikidata
Q336230 — 骨格データの出典
Commons
Orthrus — 図像カテゴリ