ナーラダ
ナーラダ・ムニ · リシラージャ · ブラフマーの意生子
三界を旅して歩く聖仙。ヴィーナーを奏でてヴィシュヌの名を歌い、争いを運びながらも物事を正しい方向へ動かす者とされている。
解説
概要
ナーラダ(Nārada / नारद)は、三界を旅して歩く聖仙である。ブラフマーの意から生まれた子の一人で、ヴィーナーを奏でながらヴィシュヌの名を歌う。神々の間で最も早く情報を運ぶ者とされ、天界・地上・地底のいずれへも自在に赴く。しばしば神々とアスラの双方に言葉を運んで争いを引き起こすが、その結果として物事が正しい方向へ動くという型をもつ。バクティ(信愛)の道を説く『ナーラダ・バクティ・スートラ』の著者とされる。
神話・物語
『バーガヴァタ・プラーナ』は前世を語る。ガンダルヴァのウパバルハナであった彼は、ヴィシュヌではなく神々を讃える歌をうたった罪で地上に生まれる呪いを受けた。侍女の子として生まれ、聖なる者たちに仕えたことで供物の相伴を許され、雨季のあいだ庵に留まる聖仙たちがヴィシュヌの行いを語り合うのを聞いて育った。母の死後、森へ入って瞑想に入り、ナーラーヤナの姿を見る。以後、三界を巡って神の名を歌う者となった。
『マハーバーラタ』は彼を、ヴェーダとウパニシャッド、史書とプラーナ、六つのヴェーダーンガに通じ、論理学・倫理学・政治学・討論の術に長け、ブリハスパティとすら渡り合える学者として描く。ユディシュティラにプラフラーダの物語を語る場面も知られる。
彼を特徴づけるのは、争いを運ぶという役どころである。神々とアスラの双方に言葉を伝え、時には相手方の秘密を明かして戦いを起こす。カラハプリヤ(争いを好む者)の異名で呼ばれることもあるが、悪意ではなく、そこから知恵が生まれ、あるいは定めが成就するために動く者として描かれている。ヴァールミーキにラーマの物語を語って『ラーマーヤナ』を成立させたのも彼であるとされる。
図像と象徴
弦楽器ヴィーナー(マハティ)とカルタール(手拍子板)を携えた聖仙として描かれる。空を行く姿で表されることが多く、白い衣、結い髪、額のヴィシュヌ派の標識を伴う。「ナーラーヤナ、ナーラーヤナ」と唱えながら現れるのが定型で、演劇や映像作品でもこの所作が踏襲される。象徴となるのは楽器と、そこから流れ出る言葉である。この人物にとって、歌うことと告げ口をすることは同じ一つの行為の表裏をなす。
系譜と関係
ブラフマーの意から生まれた子(マーナサプトラ)の一人。ダクシャの子らに出家を勧めたことで父の怒りを買い、定住できぬ身となる呪いを受けたと語られる。この呪いが、彼が三界を巡り続ける理由として説明される。ヴィシュヌの熱烈な信者であり、その化身が地上に降るたびに近侍する者の一人として現れる。
文化的足跡
『ナーラダ・バクティ・スートラ』はバクティの道を体系的に説いた古典として、今日も広く読まれる。法典『ナーラダ・スムリティ』は、行いや贖罪を扱わず司法の問題だけを論じる点でダルマシャーストラのなかでも例外的な書とされる。仏教のジャータカでは、シャーリプトラの前世の一つにナーラダの名が見え、ジャイナ教文献にも同名の人物が現れる。
現代のインドでは、彼を「最初のジャーナリスト」と呼ぶ言い方が広く行われている。情報を運び、時にそれによって事を起こす存在という性格を捉えたものだが、原典が彼に与えた役割は報道ではなく、定めを動かすことにある。この呼称は後世の比喩として理解する必要がある。