プラフラーダ
ダイティヤ族の王子 · ヴィローチャナの父
アスラ王ヒラニヤカシプの子でありながらヴィシュヌを篤く信仰した王子。バクティを体現する信者の範とされ続けてきた。
解説
概要
プラフラーダ(Prahlāda / प्रह्लाद)は、インド神話に登場するダイティヤ族の王子である。三界を制したアスラ王ヒラニヤカシプの子でありながら、一族の宿敵であるヴィシュヌを幼少から篤く信仰した。父の迫害に屈せず信を貫き、その信仰がナラシンハの出現を招く。バクティ(信愛)の道を体現する者として、ヴィシュヌ派の伝統において信者の範とされてきた。
神話・物語
父が天界を奪って三界を支配していたころ、彼はヴィシュヌの名を唱えて育った。激怒した父は幾度も子を殺そうとする。毒を盛り、崖から突き落とし、象に踏ませ、蛇に咬ませ、火に投じたが、いずれも加護によって果たせなかった。父の命で彼を殺しに来た者に対しても、彼はヴィシュヌの教えを説き、その者を帰依させたと語られる。
叔母ホーリカーは火に焼かれぬ恩寵をもっていたため、子を膝に抱いて火中に座した。だが焼けたのは彼女のほうであり、彼は無傷であったという。恩寵は自らのためにのみ用いられるべきものであった、という説明が添えられる。
父の師のもとへ送られて教育を受けても、彼は考えを改めなかった。ヴィシュヌはあらゆるところに遍在するという主張に対し、父は広間の柱を指して「そこにもいるのか」と問う。彼が肯うと、父は柱を蹴り割った。そこから獅子の頭をもつ人が現れ、父を討った。信仰の主張がそのまま現実になるという構図であり、この叙述がバクティの教えの中核をなす。
父の死後、彼はアスラの王となってパーターラを治めた。ナラシンハの怒りを鎮めたのも彼であるとされ、討った側と討たれた側の双方に近い位置に立つ。
図像と象徴
ナラシンハ像において、傍らで合掌する少年として配されるのが通例である。単独の像は少ないが、南インドの寺院では化身の傍らに必ずと言ってよいほど彼が刻まれる。象徴となるのは合掌そのもので、武器も力ももたぬ者が、ただ信じることによって世界を動かすという構図を担う。
系譜と関係
父はヒラニヤカシプ、母はカヤードゥ。叔父にヒラニヤークシャ、叔母にホーリカー。子はヴィローチャナ、孫が第五化身ヴァーマナに降されるマハーバリである。祖父の代から曾孫の代まで四代にわたって化身と関わる家系であり、そのうち彼と孫マハーバリは敵対者ではなく徳ある者として描かれる。
文化的足跡
『バーガヴァタ・プラーナ』第七巻は彼の物語に多くを割き、その説く教えはバクティの古典として広く読まれてきた。母の胎内にいたときにナーラダから教えを受けたとする伝えもあり、信仰が生まれる前から始まっていたことを示す挿話として引かれる。
近現代のインドでは、権力をもつ親に信念で対抗する子という構図から、良心に従うことの範として語られることが多い。もっとも原典の関心は個人の良心にではなく、バクティが身分や血統を超えて働くという点にある。アスラの家に生まれた者が最も優れた信者となるという設定そのものが、この教えの主張である。