フィン・マックール
フィン・マク・クヴァル · フィン・マッコール · フィン
アイルランドのフィン物語群の主人公。フィアナ騎士団を率いた戦士にして予見者・詩人で、知恵の鮭を焼いた親指を舐めて全知を得た。
解説
概要
フィン・マックール(Fionn mac Cumhaill)は、フィン物語群の主人公であるアイルランドの英雄である。若い狩人・戦士の集団フィアナを率い、同時に予見者であり詩人でもある。二頭の猟犬ブランとシュケーランを伴い、槍と剣で戦う姿で語られる。物語群の多くは、彼の子である詩人オシーンの語りという体裁をとる。
名は古アイルランド語の finn / find(白い、輝く、公正な)に由来する。ウェールズ語 gwyn、ブリトン共通祖語 uindo- と同源で、ケルト祖語 windos に遡る。少年時代の名はデヴネ(「確かなもの」、また若い雄鹿)で、髪が早くに白くなったことからフィンと呼ばれるようになったとする伝えがある。
神話・物語
父はフィアナを率いたクヴァル、母はターグ・マク・ヌアダトの娘ムルネである。求婚を拒まれたクヴァルがムルネを攫ったため、ターグは上王コンに訴え、クヴァルは討伐された。クヌハの戦いでゴル・マク・モーナに討たれ、フィアナの指揮権はゴルに移る。
身ごもったムルネは父に拒まれ、焼き殺されよと命じられたが、コンの計らいでフィアハルの家に匿われた。生まれた子は、クヴァルの妹でありドルイドでもあるボズヴァルと、女戦士リア・ルアフラの手で、スリーヴ・ブルーム山地の森に隠されて育つ。ゴルの一族に追われながら、彼は狩りと武芸を学んだ。
最もよく知られるのが「知恵の親指」の由来である。少年デヴネはボイン川のほとりで詩人フィネガスに学んだ。フィネガスは七年のあいだ、その身を食べれば知らぬことがなくなると予言された鮭を追っていた。ついに捕らえたその鮭を、彼は少年に焼かせる。焼くあいだに親指を火傷した少年が反射的に指を口に含み、鮭の知恵はそちらへ移った。それを見て取ったフィネガスは、鮭のすべてを少年に与え、フィンという新しい名を授けた。以後、親指を口に含んで唱えれば、知りたいことが明かされたという。
十歳のとき、彼はタラを救う。トゥアハ・デ・ダナーンの火を吐く者アーレンは、二十三年のあいだ毎年サウィンに現れ、音楽で人々を眠らせては都を焼いてきた。フィンは、鞘から抜いて額に当てれば眠りを退ける槍を借り受け、アーレンを討った。この功で出自が認められ、ゴルは身を引いて彼にフィアナの指揮を譲る。
『ディルムッドとグラーニャの追跡』では、老いた彼が上王の娘グラーニャを許婚とするが、彼女は婚礼の宴でディルムッド・オディナと駆け落ちする。フィンは執拗に追い、オェングスの仲裁でいったんは和解するものの、数年後の猪狩りでディルムッドが傷ついたとき、癒しの水を二度まで指のあいだから落とした。孫オスカルに責められて三度目を運んだときにはすでに遅かった。英雄譚の主人公が嫉妬によって取り返しのつかぬことをする、稀な場面である。
彼の死については、死んでいないとする伝えが最も広く行われている。フィアナとともに洞に眠り、アイルランドが最も彼を必要とするときに目覚める。狩りの角笛ドルド・フィアンが三度鳴らされれば、往時のままの姿で起き上がるという。
図像と象徴
古代の図像はない。視覚像はケルト復興期の挿絵に始まる。本サイトが掲げるのはスティーヴン・リードの《フィアナを助けに来るフィン》で、槍を執る戦士として彼を描いている。
伝承上の標識は、まず親指である。武勇ではなく口に含んだ指が物語を動かすという点で、彼は戦士でありながら知の英雄でもある。同じ能力は『長老たちの語らい』では「知恵の歯」とも呼ばれる。
第二に猟犬ブランとシュケーラン。人が魔法で犬に変えられて生まれたとされ、鹿に変えられていたサヴを人と見抜き、のちに小鹿の姿のオシーンを見つけ出す。狩りの供でありながら、変身を見抜く目を持つ。
第三に持物。剣マク・アン・ルーン、そしてマナナン・マクリルから伝わった二品——満潮のときだけ中身が見える鶴袋と、バロールの首を載せて毒の染みた榛から作られた楯である。フィアナに伝わる宝の多くが海神に発するという構図は、この物語群の特徴といえる。
系譜と関係
父クヴァル、母ムルネ、母方の祖父ターグ。妻サヴは鹿に変えられた女で、その子が詩人オシーン、オシーンの子が戦士オスカルである。ほかにグラーニャ、マーニシュらの名が妻として伝わる。ゴル・マク・モーナは父の仇であり、のちの忠実な部下でもある。
スコットランドとマン島にも同じ英雄が伝わり、それぞれフィン・マッコール、フィン・マクーイルと呼ばれる。ジェイムズ・マクファーソンが1760年代に発表した『オシアン』はこの伝統を下敷きにしたもので、彼をフィンガルと呼ぶ。
文化的足跡
アイルランドとマン島の民間伝承では、彼は魔法の力を持つ善良な巨人として語られる。スコットランドへ渡るために石の道——ジャイアンツ・コーズウェー——を築いた話、投げそこねた岩塊がマン島になり、抉れた跡がローホ・ネイになったという話が広く知られる。巨人ベナンドナーとの対決では、妻ウーナが彼を赤子に仕立てて相手を怖じ気づかせる。神話の英雄が民話の巨人へ移り変わる過程を、この一群はよく示している。
19世紀のハインリヒ・ツィンマーは、フィアナの名を古ノルド語 fiandr に遡らせ、フィンをノース系の人物カティル・フィン(856年没)に比定した。ジョージ・ヘンダーソンは、その父の名がクヴァルであるはずがないとしてこれを退けている。今日この説は採られない。
T・W・ロールストン『フィンの高き功業』(1910年)、ジェイムズ・スティーヴンズ『アイルランド妖精物語』(1920年)といった再話が近代の受容を支えた。現代の幻想文学やゲーム作品にも、フィアナを率いる英雄としてしばしば登場する。