パンドーラー
パンドラ · パンドーラ · アネーシドーラー
ゼウスの命でヘーパイストスが造った最初の女。神々が贈り物を与えたことからその名を得た。壺を開けてあらゆる災いを世界に放ち、なかに希望だけが残った。「箱」は16世紀の誤訳による。
解説
概要
パンドーラー(Πανδώρα / Pandora)は、ヘーシオドスが語る最初の女である。プロメーテウスが人間のために火を盗んだ報いとして、ゼウスが人間に送りつけた。名は「すべての贈り物」と解され、神々がそれぞれ賜物を与えて造り上げたことに由来するとされる。
彼女が甕を開けたことで、それまで人間の知らなかった労苦と病が世界に広がった。悪がどこから来たのかを説明する、ギリシアにおける最も古い物語の一つである。
神話・物語
筋はヘーシオドスの二つの詩に分かれて伝わる。『神統記』では名を明かされない「美しい災い」として造られ、『仕事と日』で初めてパンドーラーと名指される。
ゼウスの命を受けたヘーパイストスが土と水をこねて乙女の姿を作り、アテーナーが機織りの技と衣装を、アプロディーテーが人を惑わす魅力を、ヘルメースが偽りの言葉と盗人の心を与えた。こうして仕上がった女は、プロメーテウスの弟エピメーテウスのもとへ届けられる。兄は、ゼウスからの贈り物は受け取るなと戒めていたが、「後から考える者」の名をもつ弟は受け取ってから事の次第を悟った。

パンドーラーが大甕(ピトス)の蓋を取ると、中に封じられていた災いが散り、人間は病と苦しい労働に悩まされるようになった。蓋を戻したとき、甕の縁の下にはエルピス(期待、希望)だけが残った。
この一節は古代から解釈が割れている。希望が人間の手元に残されたと読むか、人間には与えられずに閉じ込められたと読むか、あるいは希望そのものを災いの一つに数えるか。ヘーシオドスは理由を語らない。
図像と象徴
本サイトの主画像は、ウィーンの画家ヨーゼフ・アーベル(1764〜1818)の《プロメーテウス、メルクリウス、パンドーラー》である。神々の使者がパンドーラーを連れてくる場面を、新古典主義の様式で描く。
古代の作例では、大英博物館の白地キュリクス(前460年頃)が名高い。そこでは女の像に「アネーシドーラー」(贈り物を送り出す女)の銘が添えられ、ヘーパイストスとアテーナーが彼女を飾り立てている。大地から贈り物をもたらす女神の称号がこの物語の女に重ねられたことを示す例として論じられる。

「パンドーラーの箱」という言い方は、ヘーシオドスの「甕」を、16世紀にエラスムスがラテン語で小箱(ピュクシス)と書き換えたことから広まった。
系譜と関係
夫はエピメーテウス。二人の娘ピュッラーは、プロメーテウスの子デウカリオーンの妻となり、大洪水を生き延びた夫婦として新しい人類の祖になる。
文化的足跡
女の到来によって楽園的な時代が終わるという筋は、旧約聖書のエバと並べて論じられてきた。ただしパンドーラーは誘惑に負けた者ではなく、はじめから罰として造られた存在である点で構図が異なる。「パンドーラーの箱を開ける」という成句は、収拾のつかない災厄の口火を切ることの比喩として各国語に定着している。

領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。