ドーン
ドン · Don
中世ウェールズ伝承の祖の女性。グウィディオン、アリアンロッドらの母とされ、その一族の名は星座の名として今も残る。
解説
概要
ドーン(Dôn)は、中世ウェールズの伝承と文学に現れる祖の女性である。「ドーンの子ら」と呼ばれる一族の母とされ、グウィディオン、アリアンロッド、ギルヴァイスウィ、アマイソン、ゴヴァノンらがその名を負う。
ただし彼女自身の物語は一つも伝わらない。マビノギオン所収『マビノギ四枝』第四枝で、この名はもっぱら子らの帰属を示す形——グウィディオン・ヴァブ・ドーン(ドーンの子グウィディオン)——として現れる。近世の好古家はこの名を男性とみなすことが多かった。
神話・物語
語られる行為はない。それでも第四枝は、この一族をグウィネズの王家として一つのまとまりに束ねている。王マースは彼女の兄弟にあたり、その甥たち——グウィディオンとギルヴァイスウィ——が物語を動かし、姪アリアンロッドが禁忌を課し、その子スェウ・スァウ・ゲフェスが最後に王位を継ぐ。第四枝は、言ってみればドーンの一族の内輪の物語である。
系譜資料『英雄たちの家系(Bonedd yr Arwyr)』は子の名をさらに広く並べ、アイゼン、キナン、ディガント、エラウグ、エレストロン、エウニズ、ヘズ、フナウグ、イドワルらを挙げる。名の一覧だけが残り、物語は失われた。
図像と象徴
図像は伝わらず、当サイトも主画像を掲げない。この一族の姿は、空にある。
カシオペヤ座はウェールズ語でスィス・ドーン(ドーンの宮廷)と呼ばれた。天の川はカエル・ウィディオン(グウィディオンの城)、北冠座はカエル・アリアンロド(アリアンロッドの城)である。母と二人の子の名が、そのまま夜空の三つの目印になっている。物語を失った一族が、星の名としてのみ残ったという事実そのものが、この人物にまつわる最も雄弁な標識である。
系譜と関係
ブリテンの三題詩の系統ではベリ・マウルの妻とされ、その系譜ではアリアンロッドがベリの娘、カスワッサンの姉妹となる。第四枝の伝えとは別筋の系譜であり、両者は矛盾なく併存している。兄弟にマース。
アイルランドのダヌと同一視されることが多いが、語源上の裏づけはない。ダヌはおそらく水に関わる名で、ドナウ川やヴェーダのダーヌと同じ系統に置かれる。これに対しドーンは印欧祖語の *ǵhdʰom-(大地)に遡るとする説が有力である。名の響きが似ているだけの別語であり、当サイトでは同一視・同源のいずれとしても登録していない。トゥアハ・デ・ダナーンと「ドーンの子ら」を対応させる議論も、この語源の問題を越えていない。
文化的足跡
中世のアーサー王物語では、この名は男性に転じた。ロジャー・シャーマン・ロウミスは、クレティアン・ド・トロワ『エレックとエニード』の時点ですでにドン(Do)が男性の人物——騎士ジフレの父であり、ウーテル・ペンドラゴンの森番——として現れることを指摘した。名だけが残って伝承が失われるとき、その名は別の物語に吸い込まれる。ドーンはその過程を二度たどった人物である——一度は星座の名として、もう一度はフランス語の騎士道物語のなかで。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。