アリアンロッド
アリアンフロド · アランロド · Aranrhod
中世ウェールズ『マビノギ四枝』第四枝の女性。処女の試験で二子を産み落とし、その一人スェウに名と武具と妻を拒む三つの禁忌を課した。
解説
概要
アリアンロッド(Arianrhod)は、中世ウェールズの物語集マビノギオン所収『マビノギ四枝』第四枝『マソヌウイの息子マース』に登場する女性である。母神ドーンの娘で、グウィディオンとギルヴァイスウィの姉妹、グウィネズの王マースの姪にあたる。
名はウェールズ語の arian(銀)と rhod(輪)から成り、「銀の輪」を意味する。ケルト祖語 *Arganto-rotā に遡るとされるが、最古の形を Aranrot とみる説もあり、その場合 aran の語義は定まらない(「巨大な」「丸い」「こぶ状の」などの解が挙げられる)。物語のなかで彼女が女神と呼ばれることはない。
神話・物語
第四枝の王マースは、戦時でないかぎり処女の膝に足を預けていなければ死ぬ身であった。甥のギルヴァイスウィがその足持ちゴイウィンに懸想し、兄グウィディオンとともにプリデリとの戦を仕組んでマースを宮廷から引き離す。留守のあいだにゴイウィンは犯され、マースは帰還して甥たちを獣に変える罰を与え、ゴイウィンを妃に迎えた。新たな足持ちが要る。グウィディオンが推したのが妹アリアンロッドである。
処女であることを確かめるため、マースは彼女に魔法の杖をまたがせた。またいだ瞬間、彼女は男児を産み落とす。一人はディラン・アイル・ドンで、洗礼を受けるや海へ去った。もう一つは肉塊のようなもので、これを誰の目にも触れぬうちにグウィディオンが掬い取り、櫃に収める。やがて男児となり、常の倍の速さで育った。
宮廷での辱めに怒ったアリアンロッドは、この子に三つのトゥンゲズ(禁忌。アイルランドのゲッシュにあたる)を課す。第一に、自分が与えるのでなければ名を持てない。グウィディオンは子を靴屋に変装させて彼女の館カエル・アリアンロドを訪れ、子が石一つで鷦鷯を射落とすのを見た彼女に「金髪の者(スェウ)が巧みな手(スァウ・ゲフェス)で射た」と言わせ、それが名になったと告げた。第二に、自分が武装させるのでなければ武器を持てない。グウィディオンは吟遊詩人に扮して館に泊まり、夜のうちに幻の艦隊を海に浮かべて彼女に武具を渡させた。第三に、この世に今ある種族から妻を得られない。この禁忌は、マースとグウィディオンが樫と金雀枝とセイヨウナツユキソウの花から女を作ることで回避され、その女はブロダイウェズ(花の顔)と名づけられた。
三つの禁忌は、名・武器・妻という男の資格の三つをことごとく拒むものであった。
図像と象徴
古代の図像はなく、中世の写本にも挿絵はない。当サイトも主画像を掲げない。
彼女に結びつく象徴は物ではなく場所と名である。館カエル・アリアンロド(アリアンロッドの砦)は、北西ウェールズのランドゥログの沖に干潮時だけ姿を見せる岩礁に結びつけられてきた。第四枝の出来事をこの一帯に定位する地名の一つである。同じ名はウェールズ語で北冠座を指す語でもあり、「銀の輪」という名の解釈と響き合う。魔法の杖をまたぐ試験、幻の艦隊、花から作られた女——第四枝の主題はことごとく、見せかけと作りものによって縛りを破る技である。
系譜と関係
母はドーン、兄弟はグウィディオンとギルヴァイスウィ、叔父はマース。ブリテンの三題詩(レイチェル・ブロムウィッチの番号で35番)は別の系譜を伝え、父をベリ・マウル、兄弟をカスワッサン(史上のカッシウェッラウヌス)とし、ヌウィヴレの子スリアウスとのあいだの二子グウェンウィンウィンとグワナルがカスワッサンのカエサル追撃に従ったとする。この三題詩はアリアンロッドをベリ・マウルに結びつける唯一の資料だが、マビノギの伝えと矛盾はしない。
ウィリアム・ジョン・グリフィズは、15〜16世紀の詩人がアリアンロッド自身がマースの足持ちになったとする別伝を知っていたらしいと指摘した。第四枝のより古い形では、グウィディオンが子らの父であったとする説もある。
文化的足跡
近代のアリアンロッド像には、原典に根を持たない層が厚く重なっている。ロバート・グレイヴズは『白い女神』で、タリエシンの謎かけに現れる「アリアンロッドの牢」を手がかりに、彼女をケリドウェンの一面、すなわち詩神の相とみなした。日本語圏で流布する「月の女神」という説明も、原典にその記述はなく、近代の再解釈に由来する。名の響きのよさから、現代のゲームやアニメ作品でもしばしば用いられている。第四枝が語るのは月でも詩神でもなく、辱めを受けた女が言葉によって報復し、言葉によって出し抜かれる物語である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。